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第4話 彼の魅力
「これ。さっきの授業、ノート全部写しきれなかっただろ?」
進一郎がそう言ってノートを差し出すと、冬多は真っ赤になって、
「あ、ありがとう……」
消え入りそうな声でお礼を口にする。
その体は細く、まだ成長が足りず、壊れてしまいそうなくらい華奢だ。
体育も苦手なようで、なにをしても失敗する。
でも冬多は絶対に手を抜くことはないし、どんなに馬鹿にされても、最後までやり抜く。そんなところは芯に真っ直ぐ筋が入っていて。
進一郎は彼のそういうところに、胸が切なくなる、というか、すごく惹かれているのだった。
「じゃトロ多、あと頼んだぜー」
言うが早いか、冬多以外の掃除当番は鞄を抱えて、教室を出て行ってしまった。
冬多も彼らを追いかけはしない。
掃除を押し付けられるのは毎回のことだ。
冬多は溜息を一つ落とすと、まずは一つずつ机と椅子を教室の後方へ移動させていく。
これから、すべての机と椅子を移動させ、モップをかけ、また机と椅子をもとの位置へ戻し、机の上の雑巾がけをする。
一人ですべてのことをするのは大変ではある。
適当にすませればいいのだろうが、冬多はそれができない性格だったし、それに家に早く帰っても、どうせ一人だし、特にやりたいこともない。
冬多が机を運んでいると、教室の扉が開き、声が降ってきた。
「あれ? 矢島、掃除当番、押し付けられたのか?」
その声に、冬多の胸がトクンと小さく跳ねた。
「佐藤くん……」
扉の傍に進一郎が立っていた。
「あ、あの、う、うん」
冬多がしどろもどろになっていると、進一郎が教室へ入ってきた。
持っていた鞄を置くと、冬多の傍に来て一緒に机を運び始める。
冬多は戸惑い、
「あ、あの、佐藤くん、僕、一人でするから……」
小さく断りの言葉を口にした。
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