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第5話 少しずつ近くなる距離
「二人でしたほうが早く終わるだろ? それにオレも帰宅部だから、特にすることもないしさ」
「佐藤くん……」
そんなはずはない、と冬多は思う。
彼――佐藤進一郎の周りにはいつも人がたくさんいる。
女の子にモテるのは当たり前だし、同性の友だちもたくさんいる。
冬多とは正反対の華やかな人。
クラス中から、バカにされたように『トロ多』と呼ばれて、ひどいいじめこそ受けていないものの、ほとんど存在を無視されている僕なんかに、ただ一人親しく話しかけてくれる、奇特な人。
結局、進一郎は机の雑巾がけまで手伝ってくれた。
てきぱきと動く彼のおかげで、ずいぶん早く掃除を終えることができた。
教室の鍵をかけながら、冬多は今になって、そういえば、と気づく。
「佐藤くんはどうして教室へ戻ってきたの?」
「ああ……、宿題のプリント忘れて、とりに戻ったんだよ」
進一郎はポンポンと鞄を叩いてみせる。
「そうなんだ……、ごめん、それなのに、掃除まで手伝ってもらっちゃって……」
「別に謝らなくったっていいよ。オレが勝手に手伝っただけなんだし。……それよりさ、矢島、おまえいつも掃除当番一人で押し付けられてるのか?」
「え……? あ……」
「矢島は大人しくて人がいいからな。でも一人で全部するのはしんどいだろ? 特におまえは手を抜くってことをしないから」
「……掃除当番が回ってくるのは十日に一度だし。それに僕は暇だから」
うつむいて言う冬多へ、
「ほんとにお人よしなんだから」
進一郎はそう呟いたあと、
「それじゃ、これからおまえが他の奴らに掃除を押し付けられたときは、オレが手伝ってやるよ」
さらりとそんなことを言った。
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