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第6話 好きになりそうな予感
「えっ? そ、そんな。僕、一人で大丈夫だから……」
冬多は慌てまくって、大きくかぶりを振った。
「オレが手伝いたいから」
進一郎は端整な顔をにっこりと微笑ませた。
教室の鍵を職員室へ返してから、二人は揃って学校をあとにした。
通学路を肩を並べて歩きながら、進一郎が冬多へ聞いてくる。
「矢島、今度の日曜日って空いてる?」
「え? うん……」
冬多はずっと緊張しまくっていた。
ときどきこっそり盗み見る進一郎の横顔は、とても端整でかっこよくて、女の子が騒ぐのも本当によく分かる。
……それに比べて僕は……。
いじける思いで、ずれた眼鏡を直し、前髪で顔を隠すようにする。
進一郎が話を続ける。
「オレ、大学生の姉がいるんだけどね。日曜日、姉の誕生日なんだけど、彼氏が仕事でどうしてもその日はいっしょに祝えないらしくて、かなり落ち込んでるんだよ。だから矢島もうちに来て、一緒に祝ってあげてくれないかな?」
「え……、でも……、僕なんかが行ったら、迷惑なんじゃ……」
冬多は戸惑いを隠せなかった。
誕生日だというお姉さんを含めて、進一郎の家族とは勿論面識はまったくない。
どう考えても自分が行ったら、かえって場をしらけさせてしまうだろう。
なのに、進一郎は言う。
「なんで? きっと姉ちゃんも喜ぶよ。人にお祝いされるのが大好きなお祭り人間だし。じゃ、決まり。今度の日曜日、午後二時に学校の前で待ち合わせな」
「え? ……あ、うん……」
押し切られる形で結局、そういうことに決まった。
そのまましばらく通学路を並んで帰り、二つ目の交差点で、二人は別れた。
冬多は自宅へと続く道を少し歩いてから、後ろを振り向く。
遠くに、すらりとした長身の進一郎の後ろ姿が見えていた。
胸の鼓動がトクトクと高鳴り、気持ちが楽しく高揚していた。
進一郎の後ろ姿が見えなくなるまで見送りながら、冬多は思っていた。
……好きになってしまいそう……。
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