7 / 94
第7話 姉の誕生日パーティ
日曜日の午後二時。
進一郎が待ち合わせ場所の学校の前に行くと、すでに冬多は来ていた。
そして、なんと手にはピンクの薔薇の花束を持っている。
「えっと……、矢島、それ、もしかして姉ちゃんへのプレゼント、とか?」
「あ、うん。誕生日のパーティに招かれるのなんて、初めてだから、なにを持っていけばいいのか、本当に分からなくて……。それで、テレビドラマとかで、よく花をプレゼントするシーンがあるから……」
「うわー、なんかかえって気を使わせてしまったみたいだな」
瑞々しいピンク色の花束は、けっこうな値段がするだろう。
「手ぶらで良かったのに……ごめん」
進一郎が謝ると、冬多はすごく慌てた。
「え? そんな、あの、や、やっぱりケーキとかのほうが良かったのかな……?」
「いや。ケーキはちゃんと予約してあるし。花束、姉ちゃん超喜ぶと思う。でも、高いんだろ? 花って」
「そんなこと……。花屋さんがおまけしてくれたし……」
「ならいいけど。……でも矢島、おまえ」
笑いが込み上げてくる。
「その花束、買うのって、恥ずかしくなかったか?」
「……ちょっと、恥ずかしかった。店員さんがいろいろ聞いてくるし……」
消え入りそうな声で答えた冬多に、進一郎はとうとう吹き出してしまった。
進一郎の脳裏に、緊張でがちがちになった冬多が花屋に入り、店員に、「彼女にプレゼント?」「素敵ね、花束のプレゼントなんて」などと冷やかされている姿が、ありありと浮かんでいた。
戸惑い顔の彼の隣で、進一郎はひとしきり笑うと、冬多を促して自宅へと歩き出した。
ともだちにシェアしよう!