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第8話 家族と彼の対面

「着いたよ」  そう言って、進一郎が振り返ると、いつもうつむきがちな冬多にしては珍しく、キョロキョロと周囲を見渡している。 「どうかした?」 「うん……。あの、佐藤くん……、あそこに、見えるでしょう? マンション……」  冬多は細い指で遠慮がちに、一戸建てが並ぶ向こう側に一つだけニョッキリと突き出ている建物を示した。 「ああ、うん。クリーム色のお洒落なマンション?」 「……僕、あのマンションに住んでて……」 「え? ほんとに? なんだ、じゃ家、すごく近いんじゃん」  進一郎の自宅から、冬多が住んでいるというマンションまでは、一本道で行け、徒歩でも十分もかからない。学校での待ち合わせはグルッと遠回りだったわけだ。  冬多の自宅と自分の自宅が近いという事実に、ほのかなうれしさのような気持ちを覚えながら、進一郎は彼を家へ招き入れた。  父親と今日の主役である姉の玲奈(れな)は、リビングでくつろいでいた。  二人に冬多を紹介する。  冬多は緊張も頂点に達していたみたいで、 「あ、あの、お、お誕生日、おめでとうございます……」  小さな声で言ったあと、あまりにも勢いよくお辞儀をしたので、弾みでピンクの花びらが何枚か零れ落ちた。 「姉ちゃん、この薔薇の花束、矢島から姉ちゃんへのプレゼントだって」 「本当? うわー、すごくうれしいっ。私、彼氏にも薔薇の花束なんてもらったことないよ。冬多くん、だっけ? ありがとう」  玲奈がピンクの花束を受け取り、満面の笑みを浮かべている。  こんなうれしそうな顔、彼氏にもなかなか見せないんじゃないだろうか……。  少なくとも弟である進一郎は見たことがない。  どうやら冬多のことをすごく気に入ったようだ。  キッチンで料理の下ごしらえをしていた母親もやってきて、進一郎の家族全員が冬多と対面をはたしたのだった。

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