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第9話 楽しいひととき

 夕食の準備ができるまで、二人は、二階の進一郎の部屋で過ごすことになった。  進一郎の部屋は、八畳ほどの洋間で、ベッド、机、テレビとdvdレコーダー、ミニコンポ、などの一通りの家具と電化製品、そして作り付けのクローゼットと本棚がある。  本棚は前と後ろ、両面に収納できるようになっていて、ホラー小説や、ホラーdvdがとこと狭しと並んでいる。 「うわ……、すごい……」  部屋に入った途端、冬多はそれらに目を奪われたようだ。 「矢島もホラー好きだろ?」 「え……? ど、どうして……?」 「いつもホラーばっかり読んでるじゃん」 「あ……」  冬多は少し頬を赤らめ、小さくうなずいた。 「夕飯まで、時間あるし、なにかdvd見る?」 「え……? でも……いいの……?」  眼鏡と長い前髪に隠されていても、冬多の顔が輝いたのが分かり、進一郎も楽しい気持ちになった。  冬多が選んだ、古い洋画のホラーを観終わったとき、玲奈が夕食の用意ができたと呼びに来た。  二人がキッチンへ行くと、テーブルの上には玲奈の好物が並び、にぎやかだった。  進一郎が、冬多に座るように促すと、向かいに座った玲奈が、スマートホンをかざし、先ほどの薔薇の花の写真を見せる。 「冬多くんにもらった薔薇の花束、部屋に飾ったからね。彼氏にもこの写メ送っちゃったー。今頃、ヤキモチ焼いてるかもねー」  などといたずらっぽく笑う。  全員がテーブルに着き、進一郎の母親が冬多に微笑みかけた。 「冬多くん、お料理、たくさんおかわりしてね」 「あ……、は、はい。ありがとうございます……」  翔多は少し緊張も和らいできているみたいで、進一郎はホッと安堵する。 「あ、冬多くん、ちょっと待って」  不意に玲奈が、なにかを思い出したように口を開くと、ポケットから小さな赤い物を取り出した。

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