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第10話 赤いヘアクリップと額へのキス
「前髪、それじゃ見えにくいでしょ?」
玲奈は、ちょっとごめんね、と身を乗り出すと、その赤い物……ヘアクリップとでも言うのだろうか……で、冬多の前髪を額の上で一まとめにして挟んだ。
「ほら、かわいい」
玲奈が満足そうにうなずく。
冬多はとても戸惑ったような様子を見せたが、やがて、消え入りそうな声で呟いた。
「ありがとうございます……」
進一郎は、こっそりと冬多の横顔を盗み見して、少々、驚いていた。
額があらわになっただけで、ずいぶん印象が変わるもんなんだな。すごく明るい印象になったというか……。
それに、こうして見ると、横顔のラインが綺麗で、肌もすごく綺麗なんだ、矢島って。
不意に彼の柔らかそうな肌に手を伸ばしたい衝動へ駆られて、進一郎は慌てて視線を逸らした。
……いったいオレはなにを……?
進一郎は、食事のあいだずっと、隣の冬多を意識してしまい、彼の肩と触れ合いそうになっている自分の肩がとても熱かった。
誕生日パーティがお開きになったときには、二十一時を少し回っていた。
「き、今日は、本当に、ごちそうさまでした……」
小さな声とともに深くお辞儀をする冬多に、
「こちらこそ、お花、ありがとう。また遊びに来てねー」
アルコールが入って、少し赤くなった顔をした玲奈が礼を返し、玄関まで見送った。
ずっとクーラーが入っている部屋でいたせいもあり、外はすごく蒸し暑かった。九月と言えど、まだまだ残暑は厳しい。
「佐藤くん……、今日は、本当にありがとう……」
「どういたしまして」
今日一日で、冬多との距離が少し近くなったみたいで、うれしい。
「……そこまで送って行くよ、矢島」
「え? そ、そんな。近くだから……一人で……」
遠慮する言葉は無視して、進一郎が先に歩き出すと、冬多は慌てて追いかけてきた。
足を緩めて冬多と並んで歩く。
進一郎は自分より背の低い彼の顔をそっと盗み見た。
髪には玲奈がつけた赤いヘアクリップが、まだそのままで、額があらわになったままだった。
スベスベのなめらかな肌……。
不意に進一郎の心の奥深くから、冬多の肌に口づけたい衝動が込み上げてきて、
――ちゅ。
気が付いたときには、彼の額にキスをしていた。
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