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第11話 恋の始まり……?

「――――!?」  冬多がびっくりして、進一郎のほうを見たときには、もう唇を離していた。 「……冬多……」 「えっ……?」 「……これからさ、矢島のこと、『冬多』って呼んでもいい?」  トクトク駆け足をしている鼓動とともに進一郎が聞くと、束の間、時間が止まったかのように固まっていた冬多だったが、やがて小さくうなずいてくれた。 「……冬多」 「……なに……?」 「また遊びに来いよ」 「うん……、ありがとう……」 「今度は泊まってけよ。徹夜で、ホラーの話、しよ?」  進一郎が口にした誘いの言葉に、冬多はかすかに口元をほころばせた。  太いフレームと分厚いレンズの眼鏡に邪魔をされて、瞳の輪郭や表情はよく分からないが、彼の遠慮がちな微笑みは、進一郎の鼓動をより高鳴らせて……。  冬多のことをとてもかわいいと思った。  結局、マンションの前まで冬多を送り、進一郎は自宅へ戻った。  シャワーを浴び、進一郎が自室で、ミネラルウオーターを片手に、濡れた髪をタオルで拭っていると、ドアがノックされて、姉の玲奈が入ってきた。  玲奈はなにやらニヤニヤと、楽しそうな笑みを浮かべている。 「なんだよ? 気持ち悪いなー、ニヤニヤと」 「進一郎、あんた、冬多くんのことが好きなんでしょ?」 「えっ……」  あまりに唐突にそんなことを言われて、進一郎は絶句してしまう。  だが、すぐに自分を立て直した。 「そりゃ、好きだよ。大事な友だちだから。そうでなきゃ、家になんか呼ばな――」 「恋してるってことよ」  進一郎に最後まで言わせず、玲奈が核心に迫ってくる。  進一郎は細く長い指で、生乾きの髪をかきあげた。 「そんなんじゃないよ。ただちょっと気になる存在っていうだけで……」  少し怒ったような口調で言うと、玲奈が得意げに指摘してきた。 「そういうのが、恋の始まりなのよ」

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