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第12話 絶世の美少年?

「だから、そんなんじゃな――」  だが、またしても進一郎の言葉は途中で遮られた。 「ね、進一郎、冬多くんは前髪をすっきりさせて、眼鏡を外したら、ものすごく綺麗な子よ。絶世の美少年ね」 「はあ?」  進一郎は思わず頓狂な声を出してしまった。  確かに冬多のはにかむ姿や仕草を、進一郎もかわいいとは思うし、額をあらわにしただけで、すごく印象が明るくなったのは事実だ。  でも、眼鏡に隠されていて、はっきりとした顔立ちまでは分からない。  冬多が、玲奈のいうところの『絶世の美少年』かどうかは定かではない、と思う。  弟のそんな内心を読んだのか、玲奈は自分の目を指差して、断固とした口調で言い切った。 「私の目は綺麗な男の子を見抜くことには鋭いのよ!」 「そうかよ……」  いったいどういう返答をすればいいのか、進一郎は困ってしまう。 「あんたが冬多くんのことを好きなのは、もうビシビシ伝わって来たわよ。だから、早くモノにしちゃいなさい。あの子の素顔がさらされたら、それこそ周りは男女問わず、ライバルだらけになっちゃうよ。いいわね」  玲奈は言いたいことだけ言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。  進一郎はしばしポカンとしていたが、そのうちに姉の言葉が心にしみてきた。  冬多が絶世の美少年かどうかはさておき、自分が彼に淡い恋心を抱いているのは確かだった。  ……じゃないと、あんなふうに額に口づけたりなんかしないよな。  同性に恋心を抱く、という禁忌感は少しはあったが、もともと両親は放任主義だし、姉はあの通りだ。進一郎自身も、『好きになってしまったら、もうとめられないよな』と、前向きに考える性格だった。  自分の気持ちに気づいたからには、冬多のことをもっともっと知りたいと思うし、近づきたいとも思う。  今日一日で、彼との距離はずいぶん、縮まったと思うけど、もっと近づきたい。  少しずつでいいから、臆病な冬多を怖がらせないように……。

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