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第13話 幸せな鼓動

 マンションの自室へ帰ってきた冬多は、ふわふわと幸せな気持ちのまま、お風呂に入っていた。  広いバスタブの中、肩まで湯につかりながら、トキトキと高鳴る鼓動に身を任せていた。  進一郎と過ごした一日を振り返ると、ちょっぴり切なさを伴った甘さが胸を暖かくする。  いつもは長く感じる一日が、今日はあっという間に過ぎ去ったような気がした。  こんなに幸せな気持ちになったのは、初めて……。  そのとき、冬多の視線が右腕の付け根の裏側にある、柔らかな部分を捕らえる。  そこには赤くひきつれたようなような跡があった。  …………。  冬多は無理やりそこから視線を外すと、お風呂から出た。  脱衣所でバスローブを羽織ると、バスタオルで髪を拭う。  洗面台の上に置いてあった眼鏡をかけると、冬多は自分の顔を鏡に映した。  冬多は軽い近視だから、本来なら黒板を写したりするとき以外は、特に眼鏡は必要としない。  それでも、冬多が、この黒色の太いフレームの分厚い硝子の眼鏡をかけるのは、顔を隠すためだった。  冬多は自分の顔が大嫌いだからだ。  髪を拭き終えると、シャンプーしたての長めの前髪が、眼鏡の上へ落ちてくる。  眼鏡と長めの前髪、二重の防御で、冬多は素顔を隠していた。  ……でも、今日は……。  進一郎の姉が、ヘアクリップで冬多の額をあらわにしてしまい、その瞬間こそひどく戸惑ったものの、不思議とすぐに気にならなくなった。  自分の額が全開になっていることさえ、忘れてしまっていた。  そして、進一郎が冬多の額へ……キスをした。  彼の冷たくて柔らかな唇の感触は、冬多の記憶に深く刻み込まれていて……。  冬多は細い指で前髪をかき上げると、額に……進一郎の唇が押し当てられたところに、そっと触れた。  彼が口づけをくれたところは、熱を持っているかのように熱く、でも、とても甘く感じた……。

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