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第14話 恋心と壊れたヘアクリップ
佐藤くん……、どうして、あんなことしたの? どうして?
僕はバカだから、うぬぼれた気持ちを持ってしまいそうだよ……。
「佐藤くん……」
彼の名前を呟いた瞬間、突然立っていられないほどの激しい睡魔に襲われた。
冬多は濡れた髪もそのままにフラフラと洗面所を出て、寝室へ向かうと、バスローブ姿のままベッドへ倒れこんだ。
*
『おまえは本当に母親に似てるな。オレを裏切って出て行ったあの女に』
『ごめんなさい、お父さん、ごめんなさい』
*
翌朝、冬多は目覚ましの音で目を覚ました。
ノロノロと腕を伸ばして、アラームをとめる。
目尻を涙が伝っていた。
またなにか夢を見ていたような気がするが、思いだそうとすればするほど、夢の残滓は遠ざかっていく。
冬多は思いだそうとするのをやめた。
いい夢ではなかったような気がしたから。
カーテンも閉めずに眠ってしまったみたいで、広い窓から朝の光が寝室いっぱいに差し込んでいた。
寝乱れたバスローブ姿のままベッドから出ると、寝室を出て、広いリビングを通り、ダイニングキッチンへ向かおうとしたとき、冬多の足がとまった。
フローリングの床になにかが落ちている。赤い、小さな物……。
「え……? なんで……?」
落ちていたのは赤いヘアクリップだった。昨日、進一郎の姉が冬多につけてくれた物。
それが、踏みつぶされたように粉々に砕かれていた。
冬多は愕然となった。
どうして、このヘアクリップがこんなところで、こんなことに……!?
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