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第15話 不安な朝

 冬多はなにがなんだか分からなかった。  ヘアクリップは、進一郎に渡して、玲奈へ返してもらおうと思っていたから、昨夜、部屋へ帰ってきて、すぐに制服の胸ポケットに入れたはずだった。  冬多はダイニングキッチンへ向かうのをやめ、勉強部屋へ入った。  机の横の壁に、ハンガーに掛けられた真っ白なシャツがある。  ……そう、確かにこのシャツのポケットに入れたはずなのに。  冬多は制服の胸ポケットを確かめてみたが、やはりそこにはなにも入っていなかった。  ……どうして?  冬多は昨夜、部屋へ戻って来てからの記憶を反芻してみた。  ふわふわと幸せな気持ちで部屋へ戻った冬多は、お風呂のお湯張りボタンを押してから、勉強部屋へと行き、制服のシャツのポケットにヘアクリップを入れた。  それから勉強部屋を出て、ゆっくりとお風呂に入って。  お風呂からでたあと、なぜか急にすごい睡魔が襲ってきて、バスローブ姿のまま、ベッドへもぐり込んだ……。それだけのはずだ。  なのに、本当に、どうして……?  冬多は再びリビングへ戻ると、無惨な姿になってしまったヘアクリップを拾いあげた。  粉々に砕かれたそれは、悪意を持って踏みつけられたように見える。  勿論、冬多はそんなことをした覚えはないし、そんなことをするはずがない。  もしかして誰かがこの部屋に忍び込んだ?  冬多の背中を冷たいものが走り抜ける。急いで玄関に行き、確かめたが、鍵はきちんとかけられていたし、チェーンもしてある。  部屋は十階にあるので、ベランダから忍び込んだとも考えられない。  だいいち、どこも荒らされた形跡がない。ただヘアクリップが壊されていただけ……。  本当になにが起きたのか、まったく分からなかった。  でも、実際にヘアクリップは壊れてしまっていて。  冬多は途方に暮れてしまい、とても悲しい気持ちになった。  あんなにやさしくしてくれ、楽しくてたまらない時間をもらったのに、それを裏切る形になったのは確かなのだから……冬多にまったく覚えがなくとも。  佐藤くんや佐藤くんのお姉さん、怒るだろうか? ……やさしい人たちだから怒ることはなく、呆れられちゃうかもしれない……。  冬多は昨日、少し進一郎に近づけた気持ちがしていた。  なのに……、これでまた遠くなってしまうのかな?  冬多は粉々のヘアクリップを手にしたまま、茫然と立ち尽くしていた。  

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