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第26話

翌朝――満ちるが起きていくと、鳥斗と人貴が仲良く食卓で向かい合い、トーストを齧っていた。 「あ。あれっ?ええと……?」 「おはよ兄さん。腹へったから先に食ってた。コーヒー、入ってるよ、よかったら」 人貴が言う。 「うん……ありがと。え?今日――出勤――するの?」 「ああ。月曜だもん」 「けどその……」 言いながら満ちるは鳥斗を見、おやと思った。髪の色が――また濃くなって、殆ど元の焦げ茶色に戻っている。 「あれっ……と、いうことは……ひょっとして、繁殖期は……終わり?」 はい、と鳥斗が満ちるに向かって、少し恥ずかしそうに頷いた。 食べ終わると二人は連れ立って、いつものように出かけて行った。それを送り出した満ちるが一人でコーヒーを啜っていると、龍之が暖簾を分けて顔を覗かせた。 「おはよー。なんだあいつら、普通に出勤してったのか」 「はい。――鳥斗君の婚衣……なくなってました」 「へえー。繁殖期はお終いか。案外短いもんなんだな」 「今度の繁殖期は秋の実りの頃に、また来ます――」 いつの間にかやってきた白夜が言う。 「女禽鳥が出産すれば次の繁殖期には加わりませんが、ま、お二人の場合、そうはならないので」 「年に二回か」 龍之が伸びをした。 「少ないような、充分なような。……お前さんはどうなんだよ?」 「え?私ですか?」 白夜は笑った。 「私は坊ちゃんの世話に夢中で、何度か繁殖期を見送っているうちに、今では婚衣も出なくなってしまいました。――もう来ないんじゃないですかねえ」 「寂しい事言うなよ。あの黒羽は、お前に求愛してんじゃないの?」 「それは――どうでしょう」 言いながら白夜は、昨夜一晩、傍らに黙って寄り添ってくれていた黒羽のことを思った。彼は言葉は巧く操れない。けれど――白夜に対する、この上なく深い思い遣りは――伝わってきた。 私の優しく、暖かい暗闇。 それが確実に存在するのだと想うだけで、気持ちが和らいでいく―― 「なんかそういうのは別に――なくてもいいですねえ」 満ちるがくれたコーヒーカップを両手で包み、その温もりで、人と同じ形の掌を――あたためるようにしながら白夜は言った。 「それはなにか、わかる気がします。そういう行為がなかったとしても、心を通じ合わせる事って、きっと可能なんですよ……」 黙って聞いていた満ちるが言った。 「ありゃりゃりゃりゃ……肉欲に溺れたがゆえ憂き目をみている俺にはまったく――耳の痛いお言葉だ」 龍之はコーヒーマグを持って立ち上がり、 「しかしめげない俺は、さらなる欲望を遂げるべく、桜ちゃん用デートコースの研究に励んできます。これが失敗に終わったら、その時はあきらめて、ストイックなお二人さんの仲間に入れていただくとしますよ……修行が必要そうだけど」 と陽気に言って、台所を出て行った。 後に残った二人は顔を見合わせて――同時に吹き出した。笑いながら白夜は、今日は満ちるさんに教わって、貰った山菜を皆で食べられるよう料理しよう、そうして――できあがったら黒羽を招待してやろう。人間用に拵えられた食べ物は美味しいから、あいつもきっと、喜ぶだろう――と考えていた。 終

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