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第25話
部屋のすぐ外の廊下でごとりと音がしたので、鳥斗を抱えてまどろんでいた人貴は目をあけた。起きて行って襖を開けると、足元の廊下にドリンク剤のボトルが入れられたドラッグストアの買い物袋が置かれている。龍之が差し入れてくれたんだと分かり、人貴は微笑んでそれを取り上げ、部屋の中へ戻った。鳥斗も目を覚ましたらしく、ぼんやりと目を開けてそれを見ている。
「それ、なんですか……?」
「ん?お前の叔父さんからの――プレゼント」
言いながら人貴は袋からパッケージを取り出した。1ダース入りのカートンが二つも入っている。安いもんじゃないのに……と思いながら、人貴は
「まったく……オッサンってば……いったいあと何回やらせるつもりなんだよ……」
と呟き、苦笑した。また鳥斗の傍らに戻って布団に寝転がると、窓から、細くなった月が、夜空に輝いているのが見えた。
自分のやや少し前を、黒羽が人間の足でひょこひょこと慣れない様子で歩いて行く。その後姿を暫く眺めていた白夜は、彼に声をかけた。
「黒羽、この辺りは――夜になれば誰も出歩かないから――驚いて騒ぐような人間はいない。普通の姿に戻って構わないぞ――」
黒羽はひょいと振り返ると、不器用に白夜の前まで引き返してきた。たどたどしく訴える。
「で、でも。ハクヤと同じがいい――」
「私と同じ?――ああ、この姿か」
白夜は笑った。
「坊ちゃんや満ちるさんたちと一緒にいると――この方が落ち着くのでつい――人形 をとるのが普通になってしまった」
言いながら白夜は立ち止まり、小さく身震いして禽鳥の姿に戻った。黒羽はじっとそれを見ていたが、やがて自らも本来の姿を現した。
「この方がお前は楽だろう?」
そう言う白夜を黒羽はなおもじっと見つめている。
「……なんだ?」
白夜が訊ねると、黒羽は
「ハクヤ、綺麗。ハクヤあれと同じくらい、綺麗」
つっかえつっかえそう言いながら、細い月を振り仰いだ。
「綺麗?私が?」
一緒に夜空を見上げながら、白夜は呟いた。
「私は――綺麗なんかじゃないよ」
言った途端なぜか――急に涙が溢れてきた。ついに成禽鳥 になってしまって――自分の助けを必要としなくなった鳥斗。儚く死んでいった可哀相な妹、そして今まで自分たちに害を為す者だとばかり思いこみ、脅して追い立てていたこの――哀れな黒羽。
それらに対する想いが一緒くたになって、気持ちを持て余し、どうしていいかわからなくなって白夜はその場に立ち尽くし、声を上げて泣いた。黒羽は驚いた様子で白夜の側に近付いて寄り添ったが、思い出したようにまた姿を人に変え、泣いている白夜に不器用に両腕を差し伸べるとそっと抱いた。
その優しい腕に抱かれながら白夜は――こうして相手を慰めるのにも――人の姿というのはまことに便利なものなのだな、と改めて気が付いていた――
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