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第24話

白夜は食卓で頭を抱えている。向かいの椅子には黒羽が、電灯の明かりに眩しそうに目を細め、顔をしかめて座っていた。 白夜が、その黒羽の隣の龍之に文句を言う。 「いったいどうなっちゃってるんですか……龍之様が……こんなやつ連れてくるなんて……」 「こいつらがお前の里で忌み嫌われてるのは知ってるよ。でも話聞いたら気の毒でさ……」 「話!?この下賤な連中が話なんかするわけないでしょ!」 「そりゃお前らみたいに達者じゃないけど……ゆっくり話してやれば理解するし、こっちもじっくり付き合って聞いてやれば大体意思の疎通はできるよ……その山菜、白夜にやってくれって俺にいうから……直接渡せっつって連れてきたんだ……」 白夜は食卓の上に置いた山菜の束をちらりと見た。つやのあるわらびやイタドリ、柔らかそうなたらの芽……どれも新鮮で瑞々しく、美味そうだった。 「だけどこいつは……いつも坊ちゃんを付け狙って……」 「それは違う、と思う」 「え?」 どういうことかと白夜は龍之を見た。 「こいつが鳥斗を付けまわしてたように見えたのは、お前が鳥斗と常に一緒にいるからだよ。こいつが用があったのは、白夜、お前の方なんだ」 「え……?」 白夜は黒羽を見た。彼は相変わらず眩しそうな顔をし、両の拳で時々目をこすっている。後から台所にやってきた満ちるは立ったまま傍らで黙って話を聞いていたが、黒羽の様子に気付くとサングラスを取ってきて、彼にかけさせてやった。黒羽はきょとんとして不思議そうにサングラスを触っていたが、具合が良かったようで、やがて満足げな様子になって、落ち着いた。 「こいつ今日俺を(ねぐら)まで連れていきやがったんだけど、後ろから抱え上げられて……あっという間だった。えらい速さと力だったぜ?だからその気になればお前のスキを見て、チビの鳥斗ぐらい簡単に攫っちまえたと思う。でもそうはしなかったろ?」 「それはまあ……そうですけど……」 「こいつは小さな時、色形がちょっと異様だったから、里の連中に疎まれて山深くに打ち捨てられたんだそうだ。そのまんまなら死んでたとこを、同じように里に受け入れてもらえず、山中で細々と暮らしている禽鳥の連中に助けられた」 それを聞いて白夜は――弱くて死んでいった妹のことを想った。里では誰も、彼女を助ける手を差し伸べようとはせず――白夜自身も――禁忌だからと―― 「でも里には家族がいるから、時々会いたくなってこっそり覗きに行ってたんだと。そこでお前を見て――どういうわけか気に入ったらしいよ。けどそれを―― どうして伝えたらいいかわからなかったんだ――。禽鳥喰いと言われてる連中の中には――こいつみたいにほんとは里で産まれてつまはじきにされたやつも混ざってるんじゃないのかな。そういう連中は実際には、禽鳥の遺体を食ったりは――しないんじゃないのかな……」 「そうだったのか――」 白夜は俯いて呟いた。 「けどこいつが捨てられた事――禽鳥たちがそうするのは、仕方が無いことなんだろうと思う。お前らの伝統にケチつける気は毛頭ないんだ。厳しい環境下で生きていくには、そうしないとならないんだろう。自然と調和するのは甘くないんだってこと、俺にも想像がつくもの。でもさ、白夜、お前と鳥斗は――里から出て、今こうやって人の中で生活するようになったんだから――ちょびっとくらい掟に背いて、こいつと仲良くしてやったって――バチはあたらないんじゃ――ないのかなあ……」 そう静かに話す龍之の言葉に――白夜はじっと、耳を傾けていた。

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