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第5話 こどもの2月
2月中旬。3学期の期末に向けて、教科書の単元も終盤に差し掛かってきた。
昇降口で靴を履く。歩き出した俺らは普段通り、どちらともなく話し始めた。
「でさ、俺がバレンタインに彼女いないのが寂しいから告ったんじゃないかとか言われててさ。根も葉もない噂立てたの誰だよって感じ」
先日の、俺がクラスの女子と付き合ってると嘘を吐いたあの一件。言われてみれば、ちょうどバレンタイン前だった。そして、バレンタインが終わってから別れたといううわさが流れ始めたというのだから、タイミングが悪い。
「それは……日頃の行いの結果なんじゃ……?」
「なんだよそれ。俺そんな悪い行いしてないと思うけど……」
そう思いたいが、思い返しても良い行いだってしていなかった。
修は、眼鏡を正して俺をちらりと見た。
「でも、まあ……そういう扱いで安心した」
「どういうこと?」
「……残念キャラというか、何というか」
「どういうことだよ」
俺が恥をかいたっていうのに、それでいいってどういう意味なんだ。相手の方を見ると、修は少し紅潮していた。
「今ならいけるって告白してくる人がいなさそうで、良かったって……」
「俺がモテてなくて安心だって?」
「……まあ、そういうこと」
「大丈夫大丈夫、お前の彼氏が誰かに取られる危険性はほぼないから」
俺が笑ってそういえば、修が表情を強張らせる。
「別に、取られても平気だけどな」
「本当に?」
「……嘘」
「だろうな」
そう言って、俺らは笑った。
「そうだ、今日寄ってく?」
今日宿題多かったじゃん? と言えば、修は嬉しそうな顔をした瞬間、顔を伏せた。
「どうした?」
「塾に通うことにしたんだ」
「塾?」
そういえば、4月にはもう受験生だ。俺は勉強に対してそんなに前向きではなかったが、修は違う。俺よりも勉強ができるし、もっとずっと上の偏差値の高校に行くだろう。今まで自主学習で勉強してきた修も、塾に行き始めてもおかしくはない。
「今日塾なの?」
「今日は、体験授業。たぶんそのまま入塾する」
「そうか」
会える時間が少なくなるのは寂しいな。そう思ったが、口にすることはなかった。
何となく、これが大人になることなのかもしれない、と思ったからだ。
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