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番外編・第20話
「白木!お前、昨日誕生日だったのか⁉︎」
翌日、痛む腰を押さえ重だるい体を引き摺りながら登校すると、クラスメイト達に取り囲まれ血相を変えた顔で詰め寄られた。
「へ?」
何十人ものの視線が自身を貫き、何事かと目を瞬かせる。
「だーかーらぁぁあ!!昨日の7月24日は本当に白木の誕生日だったのかっ!?」
親衛隊がグイッと身を乗り出し、再び同じ質問をしてきて綾人はあぁ〜と、小さく頷いた。
途端、自分を囲う男達は頭を抱えては地面へ崩れ落ち泣き叫び始めた。
「うおぉおぉぉーーー!まさか、俺達とした事が白木の誕生日をっ!!!」
「なんで!親衛隊なのに、誕生日を知らねぇんだよっ!!」
「ありえねぇぇぇーーーー!!!」
ギャアギャア喚く男達を綾人は目を丸くして見つめた。
誕生日は誰に何度聞かれても絶対に教えることなく、ひた隠しにしてきた。
そんなひねくれた自分を祝おうとしてくれていた事実に直面し、なんとも言えない気持ちが胸の内を占める。
門倉もまた、今日の朝はすこぶる優しくて昨日の仕切り直しをしようと夕食に誘ってくる始末だ。
誕生日は両親が亡くなってから自分にとってはとても冷たく寂しい思い出となっていた。
それが・・・
「来年こそは!来年こそは祝おうな!!」
「九流先輩に負けないぐらいのケーキ、用意するから!」
「プレゼントだって欲しいもん、何でも言ってくれよ!!」
どうやら昨日、九流が門倉の用意したケーキとプレゼントを自分へ運ぶ姿を目撃したのが事の発端らしい。
確かに、あんな大きなバースデーケーキにプレゼント。目立たないわけが無い。
なるほど。と、合点がいった綾人はにこりと微笑む。
「ありがとう。そんな風に気にかけて貰えて凄く嬉しい」
本当に心から想えた
その想いを素直に口に出す
特別な『何か』は時に残酷で悲しさと辛さを増幅させる大きな傷となる
その日が訪れる度に間違いなく虚しさを伴うだろう。
でも・・・
『本当にいい思い出がない方が虚しくて辛い』
その教えに綾人は全くもってその通りだと淡く微笑み瞳を閉じた。
いつしか自分への興味を皆が失い、寂しい誕生日が来るかもしれない。
だけど、昨日と今日の自分を祝いたいと思ってくれる人間が自分には確かにいたのだというこの思い出は消えないと、胸を震わせた。
また一つ、物事を見る角度が変わったと笑みを深くした。
その角度は決して悪いわけでなく、良好なもので綾人は心を弾ませた。
今年の誕生日は幸せだった
来年はまた分からないけど、今年の誕生日は忘れないようにしっかり覚えておこう
瞳を開き、自分を取り囲む全てに感謝をしながら綾人は純真無垢な天使の笑顔を見せた。
ー 完 ー
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