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第1話
一目惚れだった。
仕事帰りの電車で、たまたま近くに乗り合わせた背の高い男の人から、僕は目が離せなくなった。
かっこいい人だったけど、この通勤ラッシュの中でそう何度も見つけられることはないだろうなと思いつつも、未練がましく可能な限り毎日同じ時間同じ車両に乗っていると、その後も何度かその人と乗り合わせることが出来て、彼が僕と同じ乗り換え駅でこの電車に乗ることと、僕よりも少し遅い時間の電車に乗ることが多いということを知った。
同じ頃、たまたま読んだ業界誌のインタビュー記事にその人が載っていて、僕はその人の名前が星さんであること、僕と同じ業界のベンチャー企業の社長であること、そして僕の3才年上であることを知った。
そこまでわかってしまうと、もう歯止めが効かなかった。
僕は星さんや他の社員が交代で書いているその会社のブログを日に何度もチェックするようになり、会社が早く終わった日も乗り換え駅で彼がやって来るのを待って同じ電車に乗り、挙げ句の果てには彼が降りるのと同じ駅で降りて、彼の住むマンションまでこっそりとあとをつけて行くようにまでなってしまった。
「これ、完全にストーカーだよね……」
自分でも一応いけないことをしているという自覚はある。
星さんに気付かれないように、服装や髪型を変えたり伊達眼鏡をかけたりして印象を変えるようにはしているけど、電車で彼の視界に入る位置に立ってしまうこともあるし、尾行する時に信号待ちですぐ後ろに立たざるを得ない時もあるので、いつか彼に気付かれそうだからそのうちやめなきゃとは思っているが、なかなかやめられそうにない。
「あ、あった」
そして今、僕は中古住宅の情報サイトで彼の住むマンションで売りに出ている物件を検索していた。
「3LDKかー。
あ、でも星さんのところはこの物件とは違って角部屋だから、ちょっと間取りが違うかも。
けどどっちにしろ独身男性が1人で住む部屋じゃないよね」
星さんの会社のブログの情報では彼は独身で一人暮らしとのことだけど、この広さだと同棲してる彼女とかいるんじゃないだろうか。
それともベンチャーとはいえ社長なのだから、それなりの家に住まないといけないとかあるのかもしれない。
「あー、どんな部屋に住んでいるんだろうなあ。
見てみたいな」
住宅情報サイトに載っている室内の写真を見ていると、彼の部屋の実際の間取りやどんな家具があるかを想像してしまって、そうなると実際に部屋の中を覗き見したくなってしまう。
なんとかして彼の部屋に上手く入ることは出来ないだろうか。
例えば保険のセールスや工事業者を装うとかして……。
「いや、さすがにそれは駄目だって!」
今でさえストーカーみたいなことをしてるのに、そんなことをしたら完全に不法侵入の犯罪者になってしまう。
僕はいけない考えを追い出すように首をぶんぶん振って、住宅情報サイトの画面を閉じた。
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