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第9話
それから、弥艶は女装バーHeavenを辞めた。
大友が素の自分を抱くようになって、女装したいという欲求がなくなってきていたのだ。
弥艶はずっとゲイである自分に後ろめたさを抱えて生きてきた。それを女装した艶子になる事によって身も心も女になりきり、その時だけはゲイである自分自身を許せるような気がしていた。
今は、艶子ではなく黒瀬弥艶を好きだと言ってくれる大友がいる。だからもう自分に女装は必要ない。
「弥艶」
大友が手を差し伸べている。弥艶はその手を取ると大友と肩を並べた。
「大友さん、たまには女装プレイしますか?」
「たまにはいいかもな」
大友はニヤリといやらしく笑った。
「やっぱりやめた」
「なんだよ!自分で言っといて」
「なんか浮気されてるようで嫌です」
「確かに、俺も浮気した気分になっちまうかも」
二人は顔を見合わせると、声を上げて笑った。
――さよなら艶子。
そして、今までありがとう。――
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