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第1話

 僕の名前はローリー・メイヤー、30歳独身、ロンドン在住で従兄弟が経営しているギャラリーでアシスタントディレイクターを勤めている。髪はブルネット、瞳はブラウン、近視なので眼鏡をかけているが、見た目はそう悪くはないと思っている。どちらかと言えば、女性にもてるタイプ、と自分で言うのは自信過剰かな。今のところ特定の相手はいないので、どなたか素敵な女性が身近にいればぜひ紹介して頂きたい。  さて、そんな僕が勤めているホワイトキャッスル・ギャラリーを経営している、我が麗しの従兄弟どのの様子が、最近少し妙で気になっている。  従兄弟の名前はレイモンド・ハーグリーブス。彼は6歳年下で、僕とは子供時代から家の都合で一緒に育てられてきたから、従兄弟というよりは兄弟同然と言っても過言ではない。だから僕たちの間には、秘密や隠し事は今まで基本的にはなかった。周囲はいつも忙しい大人ばかりで構って貰えず、しかも子供は僕とレイの二人きりだったから、常に二人で楽しみも悲しみも何でも分け合って生きてきた。  子供に何が分かる? そんなの手垢がついたノスタルジアに過ぎないじゃないか、金持ちの息子のくせに贅沢なこと抜かすんじゃない、と言われるかもしれない。だが往々して、金持ちの中には金と自分の事以外にはまったく興味がなくて、子供はほったらかし、という人間も多いという事実を忘れてはいけない。子供の世話は金を払って他人にやらせるものだ、と思ってる人間が親だと、子供にとっては不幸以外の何ものでもない。僕とレイの親もたまたまそういう人間だった、それだけのことだ。  まあ暗い話はそんなところにしておこう。  そんな訳で従兄弟のレイとは子供の頃からの仲で、常に寄り添い秘密を共有して二人で生きてきたようなものなのに、このところ何か僕に隠し事をしているような様子なのだ。  それに気が付いたのは1ヶ月ほど前だっただろうか。  通常モードのレイは何が面白くないのか、いつもむっつりとしていて、何か話しかけても皮肉交じりの言葉しか返してこないことが多い。これはもう子供の頃からずっとで、一緒に育った僕だから耐えられるが、何も知らない他人だったら「一体何がそんなに不満なんだ!」と叫び出したくなるだろう。  それが、ある特定の日だけ、彼の機嫌が妙にいい事に気が付いたんだ。  レイはロンドン警視庁のAACU(Art & Antiques Crime Unit/美術&アンティーク犯罪捜査課)のお抱えコンサルタントを勤めている。これは叔父のロバート・ハーグリーブスが警視総監になった際に、彼の能力を頼ったのがきっかっけだったのだが、レイは天職とばかりに、時には本職のアートディラーの仕事をほったらかしてまで手伝いをしている。  そのAACUにこの春異動してきた敏腕刑事が、レイの変化の原因に違いないのだ。  敏腕刑事の名はリチャード・ジョーンズ。  28歳にして警部補という出世頭で、将来の警視総監候補生という恐るべき逸材だ。しかも優秀なだけではない。豊かな金髪を綺麗に撫で付け、流行スタイルの三つ揃いのスーツを嫌味無く着こなすスタイルの良さ、知的な甘いマスクと美しい蒼い瞳。こんな男性が側にいたら落ち着かなくなる事間違いなし、というお墨付きを与えたくなる人物なのだ。  頭も切れ、顔も良いなんてレイの好みど真ん中じゃないか。  そんな人物が頻繁にギャラリーを訪れるようになったのだ。  彼はAACUとレイの定期連絡係として、大抵1週間に一度はギャラリーに顔を出す。その日は朝からレイのご機嫌はそれはもう信じられないぐらい良くて、出来る事ならこちらからお願いしてジョーンズ警部補には、毎日来て頂きたいくらいのものである。

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