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第2話
と、思っていたら従兄弟どののご出勤だ。
「おはよう、ローリー」
「おはよう、レイ」
レイはいつものように白いシンプルなシャツにブラックジーンズという出で立ちだ。シャツのボタンは二つ開けていて、白くて長い首筋を強調している。
従兄弟の僕がこんな事を言うのも何だが、レイは本当に黙っていれば可愛い。
明るい栗色のふわりとカールした髪、真っ白な肌、榛色の瞳、桜色の形の良い唇。まるで良く出来た動く人形のようだ。だが、こんなに可愛いくせに口を開くと途端に悪魔のような毒舌爆弾が投下されるので要注意だ。
彼の皮肉めいた態度や毒舌は、ただ単に性格が悪いから、と言う訳ではない。
こんなに可愛いレイなので、昔から男女問わず彼の周りにはファンが多い。だが本人は自分の容姿もさることながら、こんな仕事をしているだけあって、美意識が高く、自分の好みには異常にこだわりが強いので、そこらの生半可な人間では、簡単に相手が務まらないのだ。
今までにレイに言い寄って、あっけなく袖にされた人間はごまんといる。レイもその辺りはよく分かっているので、相手に期待させるような態度や言動は絶対にしない。
普段の彼が口が悪く、態度がひどいのはそのせいもあるのだ。
まあその部分は我が従兄弟ながら賢いな、と感心するが。
「ローリー、ちょっと倉庫行ってくる」
レイはそう言って地下にある倉庫へ下りていった。
その後ろ姿を見送って、僕はまた思索に耽る。
すると突然呼び鈴が鳴って、現実へ引き戻された。ガラスドアの向こうに、なんと噂の人物が立っているのが見える。
――おや? 今日は定期連絡の日ではなかったと思ったが……
僕は壁にある解錠ボタンを押す。
この辺りの一流のギャラリーは、全て外から呼び鈴を鳴らさないと、客は勝手に入れないような仕組みになっている。ヨーロッパの中では、ロンドンは比較的治安が良いとされているが、それでも油断大敵なのだ。
「こんにちは、ローリーさん」
ロンドン警視庁、期待の星が挨拶をしてくる。
彼は男の僕が見てもすごく格好いいしハンサムだ。もし僕が女性だったら、間違いなく恋に落ちる。惚れて惚れて惚れまくって、下手するとストーカーになるかも。
「こんにちは、ジョーンズ警部補」
僕はいつものように、挨拶と握手をするために立ち上がる。英国のジェントルマンならば、当たり前の行動だ。
「今日は、定期連絡の日じゃなかったと思いましたが……」
「ええ、レイに頼まれていた書類が出来上がったので、届けに来たんですよ。……レイは?」
ハンサムな彼がレイの姿を探してキョロキョロするところなんて、動画で撮影しておいて永久保存版にしておきたいくらい絵になる。
「今、ちょっと倉庫行ってるんですけど、すぐに戻ると思いますよ。お茶飲みますか?」
「いいですか? お手数じゃなければ、お願いします」
彼はお願いします、と言った後に、にっこりと素敵な笑顔を僕に向けてくる。
女性だったらここで「ぎゃー!」と黄色い歓声を上げて卒倒するところだ。
こんな色男が警察官とか、ロンドン警視庁は一体何を考えてるんだ?
絶対にこの人勤務先を間違えてるだろ?!
「紅茶にはミルクだけでいいですか?」
「ええ、砂糖は要りません」
僕はデスクの裏にあるバックオフィスにお茶を淹れに入った。ここにはミニキッチン、事務スペースと仮眠用のベッドが備え付けられている。
時折、展示会の準備が立て込んで、手伝いの人間を頼まないといけなくなると、ここで休憩して貰えるように設えているのだ。
僕はケトルのスイッチを入れて、イケメン警部補、じゃなかったジョーンズ警部補のためにお茶を淹れる準備をした。
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