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第3話

「あれ? リチャード、来てたの?」  聞き慣れた声がして、リチャードが振り返ると、レイが大きな額縁を抱えて立っていた。 「頼まれてた書類、持ってきたんだけど」  リチャードは手に持った封筒をひらひらさせた。レイは額縁をデスクに立てかけるようにして床に置くと、リチャードの側まで行き、封筒を受け取る。 「わざわざ、ありがとう。急ぎじゃなかったから、別に定期連絡の日でも良かったのに」 「いや、レイの顔見たかったから……」  リチャードは呟くようにそう言うと、レイの頬にそっと軽く触れる。レイは気持ち良さそうに目を閉じる。リチャードはバックオフィスのドアがきちんと閉まってるのを目の端で確認すると、彼の唇に自分の唇を重ねた。  二人の関係を知っているのは、リチャードの親友で部下のセーラだけだ。それ以外の人間には秘密にしてある。  現職の警察官が警視総監の甥とそういう仲だ、なんて知れたらスキャンダルになる。二人の仲は他人には絶対にバレてはいけない秘密だ。  名残惜しそうにリチャードが唇を離すと、レイが上目遣いに視線を合わせてくる。彼の榛色の魅力的な瞳が、いたずらな色を湛えてきらきらしている。 「リチャードってば、こんなところでキスするなんて、随分度胸あるね? バックオフィスにローリーいるんでしょ?」 「……スリルあると思わない?」 「なにそれ。いつからリチャードそんなキャラになったの? いつも安全パイ選択する人なのに」 「たまには、そういうのもいいんじゃないかと思って」 「僕たちもう倦怠期? まだセックスもしてないのに?」 「それを言われると……」 「別に急かしてる訳じゃないよ。この間は僕が酔っ払って迷惑かけちゃったし……せっかくリチャードその気になってくれたのに」 「レイ、気にしなくていいよ。俺たちにはたっぷり時間はあるんだから……こういうのってタイミングだろう?」  珍しく少し弱気なレイを見て、リチャードは安心させるような言葉を選んで口にする。 「……次のオフ、いつ?」 「明後日」  二人の視線が絡み合う。共に言葉には出せない想いが複雑に混じり合って、お互い黙ったまま見つめ合う。

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