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第4話

「リチャードさん、お待たせしました。お茶淹れましたよ」  僕は意図的に大きな声を出して、バックオフィスのドアを開ける。  今までぴったりと寄り添うように立っていた我が愛しの従兄弟どのと、色男警部補は慌てて距離を開けると「それで書類の件なんだけど……」とわざとらしく仕事の話を始める。 「ミルクだけ、砂糖なし、でしたよね?」 「ええ、そうです。ありがとうございます」  ジョーンズ警部補はにっこりと優しい微笑みを浮かべると、僕から紅茶入りのマグを受け取った。まさに計算してやっているとしか思えないイケメンぶりである。  こんなことされて落ちない人間が老若男女問わずいない訳がない。  自分の好みに超絶うるさいレイがこの人を選ばずに、一体誰を選ぶと言うんだ。  絶対間違いない、この二人付き合ってるだろう!? 「ローリー……何、リチャードのことジロジロ見てるの?」 「え? そんなことないよ? 僕がジョーンズ警部補の顔をジロジロ見るなんて、失礼な真似する訳ないだろう?」  僕は落ち着き払った様子で反論する。レイは僕をものすごく不審そうな表情で見つめていた。  やばいな、レイに僕が二人の仲を疑ってるとかバレると絶対禄な事がないから、気を付けないと。それにもう少しの間、僕が二人の間柄には何も気付いてないフリをしておかないと、お楽しみも減っちゃうからな。レイが面食い、頭食いだってのは分かってたけど、ここまでだったとは。と言うか、絶対レイのタイプなんてこの世に存在しないと思ってたのに、まさか現実にいたなんて。  ふふ、もう少し従兄弟どのの秘密の恋人との関係を、こっそり楽しませて貰うことにするよ。  え? 覗き見するなんて趣味悪いって? ほっといてくれ。僕が楽しんだからいいじゃないか。  僕がレイの顔を見ると、彼はものすごく怖い顔をして睨み付けていた。  だけど、そんな可愛い顔で睨まれたって、どうってことないんだよ。  僕はまるで新しいおもちゃを見つけた気分で、とってもワクワクしてる。そんな僕の表情を見て、ジョーンズ警部補が不思議そうに「ローリーさん、何か良いことでもあったんですか?」と尋ねてきた。  うん、いいね、いいね、こういう人すごく好きだよ。レイはあんな感じだけど、人を見る目だけは正確だ、と褒めてあげたい。ジョーンズ警部補はイケメンで頭脳明晰なだけじゃなくて、性格もすごく良いよ。ああ、僕が女だったらなあ。この人と付き合うのに。でもってレイとこの人を取り合ったりして、ちょっと楽しい事になったのにな。  想像するだけで、もう、ものすごく楽しくなってきた。 「ジョーンズ警部補、これからは定期連絡の日だけじゃなくて、もっとギャラリーに寄って下さいよ」  僕がそう言うと、レイは「余計なこと言うなよ」と口を挟んできた。本当はレイだって彼にもっと来て欲しいと思ってるくせに。 「そうですね、こちらに来てアートの勉強をさせて貰うのもいいかもしれません。その際はローリーさん、よろしくお願いしますね」  なんて素直な人なんだ。本当にレイには勿体ないな。僕が付き合うか? いや、僕はゲイじゃないから無理だ。 「あの、そろそろ署に戻らないといけないんで、失礼します。お茶、ご馳走様でした。美味しかったです」  そう言って、ジョーンズ警部補はマグを僕に手渡した。  イケメン警部補はもう帰っちゃうのか、残念だな。まあ、今日のところはこの辺で勘弁しておいてあげる事にしよう。 「また来て下さいね、いつでもお待ちしてますよ」 「ローリー、リチャードは遊びに来てる訳じゃないんだから」  レイは「送るよ」と言って、椅子から立ち上がるとジョーンズ警部補と一緒にギャラリーの外に出て行った。お邪魔虫には聞かせたくない話でもするつもりか? レイはギャラリーの外に出ても、ちらちらと中にいる僕の様子を伺っていた。  ああ、楽しいなあ。しばらくの間の退屈しのぎにはなりそうだ。従兄弟どのには感謝しないといけないね。  僕はギャラリーの外で親しげに話を続ける二人を見ながら、にやりと笑みを浮かべた。  その表情は幾分、悪魔めいていたかもしれないな、などと思いながら。

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