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第41話

エピローグ  ぼんやりとしたベッドサイドテーブルのランプの灯りが、部屋の中をオレンジの温かな光で満たしている。  リチャードは寝返りを打って、隣に眠る恋人を見つめる。  向こう側を向いて寝ている彼の緩くカールした髪の毛が光に透けて、いつもよりも明るい栗色に見える。リチャードはそっと手を伸ばして髪に触れる。ふんわりと柔らかな髪の感触が心地良い。  リチャードは彼の髪に触れるのが好きだった。 「う……ん……」  レイは寝返りを打ってリチャードの方に向くと瞼をゆっくりと開いた。 「……リチャード、まだ起きてたの?」 「レイの事見てた」 「人が寝てるところ観察するなんて、趣味悪いよ」 「可愛い恋人の寝顔見てて何が悪い?」  レイは驚いたように、ぱちりと目を大きく開けるとリチャードの顔を見つめて言う。 「可愛い、は余計だろ?」 「余計じゃないよ」 「……何考えてたの?」 「事件の事。レイのお陰で、事件がこんなに早く片付いて良かったなって。流石レイだな。俺なんて全然真相が分からなかったよ」  リチャードはレイの髪を梳く。レイは気持ち良さそうにうっとりとした表情で、リチャードを見つめながら言った。 「リチャードって本当にお人好しだよね。僕の推理にはちゃんと種も仕掛けもあったんだ。気付かなかったの?」 「どういう意味だ?」 「像が回転する理由、動画を撮影したのがエリックだった事、そのエリックが像を隠して偽物を代わりにガラスケースに展示してた事、脅迫状の主がアビゲイルだった事は博物館を訪れた時、関係者の話を聞いて実況見分したから分かった。だけど、翌日セーラの話を聞いただけで、どうやってウィルソン博士の家庭内の詳しい事情や博士の健康状態まで分かったと思ってるの? そんなの普通に考えて無理だろ?」  レイはそう言うと呆れたような顔で、口の端に皮肉めいた笑みを浮かべる。 「じゃあ……どうやって?」 「リチャード、博物館に行った時の事思い出してよ。話の最中に博士は何て言ってた?」 「……そうか……博士は警視総監を個人的に知ってる、って言ってた……」 「僕が事件の最初から呼ばれたの、変だと思わなかったの?」 「全然思わなかった……」 「アビゲイルがカーマイケル卿の愛人だった事、博物館の資金集めのパーティを博士とアビゲイルの出会いの場にした事、ジミーは弟じゃなくて恋人だった事、博士の目がよく見えていない事、これは全部叔父さんを通じて知った情報なんだ。じゃなければ、セーラのあの話だけでこんな詳しいところまで分からないよ」 「そうだったのか……」 「でもお陰で事件は早期解決、リチャードも無事にオフが取れて僕とこうやって過ごせたんだもん、良かったでしょ?」  レイは髪を梳いていたリチャードの手を取って、自分の口元に持って行き、唇をそっとあてた。  その表情があまりにも妖艶で、リチャードは目が離せない。  そしてふとリチャードは気付いた。 ――ちょっと待て、じゃあ全部最初からレイは事件の概要を知ってて、彼の思惑通りに周囲は動いていたって事なのか?……それじゃまさか、あの車の中での会話も全部レイの想定通りの流れだった……のか?  リチャードは少し前に一緒に行った映画館で、レイが言った言葉を思い出していた。 『僕、映画俳優になれると思わない?』 ――車の中で苦しそうに俺に告白したあの言葉……哀しそうな顔で泣いていた事、全て演技だとは思いたくない……でも……  リチャードの中で様々な思いが渦巻く。一体どこまでがレイの本音でどこからが演技なんだ? 「リチャード……何怖い顔してるの?」  レイは両腕をリチャードの首に絡め、じっと彼の顔を見つめる。 「ねえリチャード、キスしてよ」  吐息混じりの甘い声でねだられて、リチャードは堪らずに彼を抱き締める。 ――もう、どうでもいい。レイがいれば、それで……それだけでいい。 「……そんなにきつく抱き締めなくても、僕どこにも行かないよ? 僕はリチャードだけのものだから……」  レイの言葉はリチャードの唇で塞がれ、途中で止まる。 ――もしレイが俺を騙していたんだとしても……それでも構わない。俺の腕の中にいるのは、俺の事だけを想い続けてきてくれた可愛い恋人なんだ……今は何も考えるな。目の前の彼だけを見るんだ。  華奢な体を抱き締めながら、リチャードはそう思う。レイはそんな彼の気持ちを知ってか知らずか、甘えた表情でリチャードに寄り添い腕を彼の体に回し目を閉じていた。そして、そう時間が経たないうちに穏やかな寝息が聞こえてくる。安心して眠ってしまったようだった。  リチャードはその様子を見て、自分も瞼を閉じる。 ――明日の朝、目が覚めた時に俺たちの関係は何か変わっているんだろうか……?  そして彼は夢の世界へと落ちていった。

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