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1 事後報告は恋のはじまり!?①
「急いでくれ」
タラップを降りると同時に佐伯 に促した。
「良いのですか」
「構わない」
このために1便ずらしたのだ。
イタリアからの到着便は、この後の飛行機だと報告している。
しかし、俺は1便早く帰国した。
「リムジンを用意しております」
「いつもの場所だな」
「はい。諸々の手続きは全て完了しております」
さすがは有能秘書・佐伯だ。
「どうぞ、お頼りください」
サングラスの奥の瞳が目配せする。
颯爽とダークスーツを着こなす彼の背中に頷いた。
「無論だ」
検疫所を通り、入国手続きへと向かう。
「手荷物は私がお預かりします」
「頼む」
…………………………え
(なぜ、俺の両足は宙に浮いているんだ?)
「私が抱えているからです」
俺の体は秘書の腕の中
「佐伯ィィィーッ!!」
「なにか?」
『なにか?』……ではない
有能秘書・佐伯よ!
「なぜだ?」
「なぜ……と仰いますと?」
気づけ!お前は有能秘書だろう。
「公衆の面前でェェェーッ!!」
俺を…………
「抱っこするなァァァァーッ!!」
「………」
「………」
「………」
佐伯?
有能秘書・佐伯さん?
お返事は?
「できません」
「…………………………は?」
「私にとって一番大切な手荷物は、あなたです。天見 佑都 様」
(俺が大切………)
なのは当然だ。
なぜなら俺は………
「佐伯!」
叫んだ俺の声は掻き消された。
一発の銃声によって
「悪い虫、付けてきたようですね。佑都様」
俺を左腕に
右手に拳銃を
銃口から青白い硝煙が流れる。
背後
男がひとり、倒れていた。
脚を撃たれている。
大男が悲鳴を上げて、立つ事すらできない。
「国際指名手配犯です」
イタリアマフィアだ。
たった一発で仕留めるとは。
「さすがは有能秘書・佐伯!」
「その呼び方、いい加減やめてもらえませんか」
…………………………え。
「お前は有能秘書・佐伯」
「ではありません」
…………………………えええッ
(有能秘書・佐伯でなければ、お前は何者なんだ?)
思い出せ。
佐伯が俺の元に派遣されてきた経緯を。
帰国の手筈、一切を任されて本社から派遣されたのが彼だ。
素性はトップシークレット
彼の名字が佐伯である事以外、俺も知らない。
「大体、こんな公衆の面前で発砲したら只では済まない事は分かりきった事実でしょう。
なのになぜ、騒ぎにならないのでしょう?
なぜ、空港警察が駆けつけないのでしょう」
そうだ……
そうなる筈なのに。
ここは、余りにも静まり返っている。
飛行機の搭乗客は、どこへ行った?
……「お前は既に誘導されていたのだよ。『有能秘書・佐伯』の手によって」
同じ声、なのに。
口調が変化しただけで……
なんなのだ?この威圧感!
長い指がサングラスにかかる。
「この場所は既に占拠されている」
サングラスの向こう側の瞳は、漆黒
「我が社の管轄だ」
ザッ!!
靴音が一斉に鳴った。
「お帰りなさいませ!!組長!!」
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