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第1話

 あの夜が永遠に続くのなら、きっと繰り返し同じ言葉をきみに伝えるだろう。 「忘れないで。俺はきみと恋に落ちたんだ」  事件が無事に解決した時ほど、気分がすっきりすることはない、とリチャード・ジョーンズは思っていた。まるで超常現象かと思うような、回転する不思議なエジプト像が鍵の掛かったガラスケースから突如消失するという事件が、レイのお陰で予想外に早く片付いてくれたお陰で、明日のオフは予定通り取れる事になった。  チーフのスペンサー警部からの指示通り、ウィルソン・エジプト博物館へセーラ、クライブ、サーシャと共に出向き、参考人を署へ連行。彼らの事情聴取などを終え、リチャードは後の事をセーラに任せると、自分はレイが待つギャラリーへと急いで向かった。  車はMET庁舎の駐車場へ戻し、バスでギャラリーへ行くことにする。いつも通りの経路で向おうとするが、すでに帰宅ラッシュの交通渋滞が始まっていて巻き込まれてしまい、自分が予定していた時間よりも大幅に遅れてしまう。  時計を見ると午後7時半をとうに過ぎていた。  オープニングパーティは6時からだ、とレイは言っていたが、この国では何事も時間通りに始まる試しがない。6時は6時半だとみるのが妥当なところだろう。  だとすれば、もうこの時間のパーティはフルスウィングだ。客達はアルコールを片手に、だいぶ盛り上がっているのではないだろうか。  リチャードはそう思うと、少し気が重くなる。  本音を言えば、パーティは苦手だった。  一番最初にレイのオープニングパーティに招待された夜を思い出す。  艶やかな笑みを浮かべて歓談しながら、招待客の間をまるで蝶のようにひらひらと華やかに舞うレイ。常に彼のところにだけ、スポットライトが当たっているように見える。彼特有の魅惑的なオーラが人々を惹き付けて止まない。客達はこぞって彼と話をしたがった。  そうなると自然、リチャードは壁の花になる。彼はレイ以外の知り合いが誰もいなかったから。

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