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第2話
リチャードはぼんやりと、シャンパンを片手にレイの様子を見つめる。この場にいる誰よりも美しい自分の恋人を見るのは、何よりも心が満たされた。例え自分が壁の花であったとしても。
だがそう思っていられたのも最初のうちだけだった。
誰もがレイを求め、彼に振り向いてもらおうと、あの手この手を使って誘惑する様子を見ているうちに、リチャードは胸が苦しくなっていた。
――嫉妬……してるのかな。俺。
彼は今までに感じた事がない感情を覚え、戸惑いを隠すことが出来なかった。
それはこの時だけに限らなかった。
結局のところ毎回レイにパーティに誘われるたびに、同じ感情に戸惑う羽目になったのだ。
それならば誘いを断ればいい、と言われそうなのだが、それはそれでレイを傷つけるのではないか、と思ってリチャードは断ることが出来なかった。
だが、今回は少しだけリチャードの気持ちは違った。
前日レイを伴ってドライブした際に、思いがけず彼が自分の本心をリチャードに語ったのだ。
――レイは俺がブルック巡査と話すのを見て嫉妬した、と言ってたんだっけ。
レイが自分と同じような気持ちを抱えていたと知って、リチャードは驚くのと同時に、自分だけではなかったのか、とどこか安心する気持ちもあった。
バスを降り、まっすぐギャラリーへ向かう。
この時間帯、すでに周囲の店舗は閉店しているので、通りは閑散としている。この辺りは高級ブティックやギャラリー、大使館などが多く、飲食店はないので、6時以降はロンドン中心部とはいえ静かなものだった。
そんな中、レイのギャラリーだけが煌々と明りが灯り、人々の歓談する声が外まで聞こえてきている。
リチャードはギャラリーのドアを開けて中に入る。今日はパーティがあるので、常にドアは開いている状態だ。通常は防犯上、外からドアベルを押し、中にいる関係者に解錠ボタンを押して貰わなければ開かないような仕組みになっている。
一歩ギャラリーの中に入ると、もわっとした人いきれと賑やかな人々の声がリチャードを包み込む。
いつもの静寂に支配されたギャラリーとは、まったく別の空間だった。
リチャードはレイの姿を探す。
人の輪の中に彼はいた。白いシルクのシャツとブラックのヴェルヴェットのスリムラインのボトムスを纏う彼は、この場の誰よりも目立っていた。
リチャードの視線をまるで感じ取ったかのように、レイがゆっくりと彼の方を振り向く。
そしてまるで蕩けてしまいそうな笑みを浮かべると、どこかふわふわとした足取りで、彼の元へと歩み寄る。その様子は、まるで実体を持たない妖精のようにリチャードには見えた。
手にはお決まりのシャンパン入りのフルートグラス。
彼が側に来ると微かに甘い香りがした。
――今日は香水つけてる?
普段レイは香水をつけない事を、リチャードは知っていた。
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