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第3話
「……リチャード、遅かったね」
「ごめん、仕事で遅くなった」
「分かってる。気にしないで。……シャンパン飲む?」
「ああ、貰おうかな」
レイはぐるりとギャラリー内を見回すと、トレイの上にシャンパン入りのフルートグラスを載せて、客達に振る舞っているスタッフを手を挙げて呼ぶ。
スタッフがトレイを差し出すと、レイは手にしたフルートグラスのシャンパンを呷って空にして載せ、新しいグラスを二つ手に取った。
そしてそのうちの一つをリチャードに渡す。
「飲んでみて」
自信ありげにレイは言う。
リチャードが一口含むと、今までに飲んだ事がないような芳醇な芳香が、口の中いっぱいに広がる。
「……これは?」
「美味しいだろ?」
レイはきゅっと口の端を上げて、自慢気な微笑みを作ると、リチャードの顔を見つめる。
「高級なシャンパンなのか? こんなに美味しいのは初めて飲んだよ」
「特別なルートで手に入れたんだ。リチャードに美味しいって言って貰えて、僕も嬉しいよ」
「レイはシャンパンに関しては、本当に口うるさいもんな」
「口うるさいって何?」
レイは眉を寄せて、不満そうな顔をする。
「あ、いや、いい意味で、だよ?」
「いい意味って何?」
更に突っ込まれて、リチャードは黙り込む。
「まあ、いいや。美味しいシャンパンに免じて、今夜は許してあげる」
美味しいシャンパン様さまだな、とリチャードは心中ホッとする。
その時、レイを呼ぶ声が人の輪の中からして、グループの内の一人が近づいてくる。
「レイ、ちょっと来てよ」
ブルネットの長い髪の女性が、無理矢理レイの腕を取って、グループの輪の方へ連れて行く。
「ごめん、リチャード。ちょっと飲んでて!」
そう言い残すと、彼は女性に引きずられるようにして行ってしまった。その様子を見てリチャードは仕方ないな、と溜息をつく。こんなことはパーティではよくある話で、もうリチャード自身慣れっ子になっていた。
――今夜も壁の花、かな。
リチャードはシャンパンに口を付けながら、レイの姿を目で追う。
レイは先ほど彼を連れて行った女性のグループの中心にいて、周囲の人達と何やら熱心に話し込んでいた。
――あまり物欲しそうな目で見ない方がいいよな……
そう思って視線を落とす。
ずきん、と少し胸が痛んだ。
――レイも俺がブルック巡査と話しているのを見て、こんな気分になったんだろうか?
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