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第17話
「俺をこんなに翻弄するなんて、レイは罪深い修道女だな」
リチャードの言葉に、レイは体の向きを変えてこちら側へ向き直る。
「リチャードってば、あの香りが余程気に入ったんだね。シェアして使う? 二人で同じ香水を使うなんて、すごく官能的だよね」
「でも俺には少し甘すぎないか?」
「うーん、そうだね。リチャードには、もう少し男性的な香りの方が似合う気がする。今度リバティに行って、僕と一緒に使えそうな香水、見繕ってきてあげようか?」
恋人と同じ香水をいつも身につけてるなんて、いつも相手を身近に感じてるみたいで、これ以上ないくらいセンシュアルなのかもしれない、とリチャードは思っていた。今まで誰かとそんな風に何かをシェアしよう、なんて考えた事は一度もなかった。例え付き合ってる相手だったとしても。
彼にとっては何もかもが初めての経験で、同時にエキサイティングで、考えれば考えるほどレイを手放せなくなっている自分に気付き、胸が締め付けられるような気持ちになった。
――もしかして、これが恋、なのかな。
リチャードは、ようやく自分自身の本当の気持ちを自覚したような気がして、どこかホッとしていた。今までは自分の意思とは無関係に、どうしてもレイの気持ちに引きずられる部分が大きかったのだ。
「リチャード、新聞買ってきてくれる? 僕ちょっとベッドから出られないから……タイムスとガーディアンお願いしたいんだけど」
「いいよ。ニュースエージェントどこ? 近くにカフェがあれば、ラテ、テイクアウェイしてくるけど?」
「本当? ニュースエージェントはワンブロック先の通りにあるし、並びにカフェもあるから。ラテはミドルサイズでお願い」
「ミルクたっぷり、だろ?」
「やっと僕の好み覚えてくれたんだね」
「可愛い恋人の好みなんて、とっくに覚えてたよ」
リチャードはそう言うと、レイの額に親愛の情を込めたキスをする。
「そこじゃなくて、唇にしてよ」
レイが甘えた声でねだってくる。リチャードは言われたとおり、キスでレイの口を塞ぐ。
「……好きだよ、レイ」
「知ってる」
レイはリチャードの気持ちを見透かしたような表情でそう言った。
――そう、レイには誰も敵わない。俺はきみの憐れな従僕に過ぎないんだよ。美しい王子様の仰せのままに、俺は従うしかないんだ。
リチャードはレイに求められるまま、キスを繰り返す。
――この日が永遠に続いてくれればいいのに。レイ、俺はきみと恋に落ちたんだ。決して忘れない。きみと過ごした初めての夜のことを。
リチャードはレイをきつく抱き締めると、そう固く誓う。
その腕に身を任せた彼の天使は、微睡んでいるかのような、柔らかな微笑みを満足そうに浮かべていた。
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