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第1話
「テレビの前のお友達ぃー!みんな元気かなぁ?響希お兄さんだよぉ!」
僕、音羽響希 と申します。年は24歳。今年の春から子ども向け教育番組の11代目歌のお兄さんやっております。
小さい頃から素朴で真面目なところしか取り柄が無いと言われ続けた僕。有名なミュージカル俳優を輩出した劇団季節の看板俳優さんに憧れ、何とか名もなき私立大学の音楽科へ入学。劇団のオーディションを始めとした様々な就職試験を片っ端から受けたものの結局どこからも採用してもらえず、コンビニでフリーターをしていたのですが……。
この春、ダメ元で受けた歌のお兄さんのオーディションに合格してしまいました。
たとえ、相方のゆうみお姉さんに日々足蹴にされようが、共演する子どもたちにバカにされようが、僕はこの人生のピークを任期が終わるその日まで全うするつもりでおります。
「て言うか、何度言ったら分かるんだよ。もっと楽しそうにあのフリのところは笑えよ!!だいたい歌のお兄さんのクセに、何でそんな野暮ったい髪型なんだよ?!」
相方のゆうみお姉さんは、音楽界へ数々の巨匠を輩出している某有名私立音楽大学声楽科首席入学した現役の学生さんです。
口はだいぶ……否、少々悪いですがプロ意識と実力はさすがなものです。
毎回撮影が終わる度に、プロデューサーさながらの“反省会”と称し僕に細かくダメ出しをしてくれるのですから。
ちなみに本日も練習室へ呼び出されています。ここは人が誰もいないので、教育的指導ができるとゆうみお姉さんは言っておりました。
そんな彼女はどうやら今日、少々気が立っているようです。
イケメンだというハイスペックの彼氏と上手くいってないのでしょうか。
「すみません。次はもっと笑顔を意識してやりますから。髪型も……前髪のことですよね、本当にすみません。今日これから美容室へ行って髪を切ってきますからどうか許して下さい」
頭をペコペコ下げながら僕はいつも通り謝罪に徹します。こうでもしないと、ゆうみお姉さんの機嫌は本当に治まらないのです。
「はぁ?だいたい、いつも“次”とか甘っちょろいこと言ってるけどねぇ。全然改善の余地が見られないのよ!あんたがダメなせいで、今回のコンビは史上最低ってネットで叩かれているんだからね!小さい頃から首席以外取ったことのない私からしたら、人生の汚点よ!お、て、ん!!
いい?これから1ヵ月の間に何も変わらなかったら、私からプロデューサーにあんたの解任を直談判するわよ!言っておくけど、本気だからね!!」
鬼のような形相でゆうみお姉さんはそう言うと、僕を置いてソール裏が赤い海外の有名ブランドのものだというハイヒールで颯爽と帰って行ったのでした。
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