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第2話

「あぁ、どうして僕が合格したんだろう。絶対何かの手違いだよなぁ」 撮影後一人モタモタしている間にゆうみお姉さんからいつもの地獄の反省会へと呼ばれてしまった僕は、着替えるタイミングを逃してしまった自身の要領の悪さに大きく溜息を付いたのでした。 「とりあえず今日はこれから美容室へ行ってもさっとした髪型を切ってもらおう」 もさっとしすぎた黒い前髪を摘みながら僕は呟きました。 元々見た目にこだわりが無く“爽やか”や“清潔感”から程遠かった僕ですが、さすがにオーディションを受ける前には「歌のお兄さん風」を意識した外見を心掛けて面接に臨みました。 ですが、“爽やか”の持続方法を知らない僕はどのタイミングで“爽やか”さや“清潔感”のアップデートをしたら良いのか本当に分からないのです。 「さぁ、着替えて帰ろう」 ドアを力無く開けると、突然目の前を茶色のモフモフに塞がれてしまいました。 「えっと……」 戸惑いながら恐る恐るその茶色いモフモフを見上げると、そこには168cmある僕より遥か上に顔がある番組人気マスコットキャラクターの巨大な茶色の熊、モグたんが立っていたのでした。 タレ目で愛らしく、身体は食いしん坊の設定を活かして恰幅がかなり良く、縦にも横にも大きく作られている熊の着ぐるみです。中に入っている人は相当背が高く、運動神経もかなり良い方だと思います。 そうでなければ、こんな大きな着ぐるみの中に入って僕たちと同じかそれ以上であるキレッキレのダンスはできないと思うのです。 「モグたん!!」 普段モグたんとお兄さんお姉さんチームは控え室等の裏で一緒になることは無いので、この遭遇はとても貴重で珍しい出来事です。思わず僕は声を上げてしまいました。 当然モグたんの中にも人が入っているのでしょうが、僕はと言うか共演者やスタッフの誰も中の人の顔を見たことはないと言っていました。 もしかするとあれだけの激しい動きをキレッキレでするのでコンピューター操作ではないかとの噂も立っています。 最早、中の人の件は都市伝説の域となっている次第です。 もしかするとスタジオのどこかでは中の人とすれ違っているのでしょうが、何せお顔を拝見したことがないので直接ご挨拶に伺ったことはないのです。 そう言えば……スタジオにいる時は気が付かなかったのですが、至近距離で見るとかなり雰囲気が違うような気がします。 気のせいでしょうか。 確かいつもはもっと皆から愛される、大きくてモフモフした可愛い熊さんのはずなんですが、今のモグたんは何て形容して良いのか。 ゆうみお姉さんのような圧があるような……。 それとも長寿番組の先輩であるモグたんに僕のような新参者が、気軽に名前を呼んだので怒っているのでしょうか。 ここは、“モグたん先輩”とお呼びすべきだったのでしょうか。

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