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第3話

「モグたん先輩、すみません……」 どれが答えだか分からない僕は、取り敢えず“先輩”を語尾に付けて謝罪致しました。 すると僕の顔を無言で見下ろしたモグたんは、強引に手を取りパイプ椅子へ座るよう動作のみで指示したのでした。 椅子に座る僕。 そしてその僕をかなり上から見下ろすモグたん……。 この図、何か説教されるみたいです。 ゆうみお姉さんに説教され慣れている僕だからこそ分かる感覚です。 もしかしなくても、これからは僕はモグたんにまで身に覚えの無い説教をされてしまうのでしょうか。 『おい、そんなにビクビクするな』 大きなタレ目の愛らしい熊から、突然セクシーな低い美声が聞こえてきました。 「へ?誰……?」 思わず僕は周囲を見渡しました。 『やっぱりホンモノのバカなのか、お前』 やはりセクシーな男性の低い美声が聞こえてきます。ですが、喋った言葉は辛辣です。 ……分かってましたけど、分かってましたけど。 僕がバカだってことくらい。 で、でも熊の着ぐるみになんか言われたくないでぇぇえええすぅぅううう!!!! 心の中で発狂していると、更に僕を畳み掛けるような言葉が聞こえてきました。 『アンタ、せっかく歌のお兄さんになったのにゆうみお姉さんに言われっぱなしでいいのか?』 あ、やっぱりこの美声……モグたんからしている? 「……モグたん先輩が喋ってる!」 ようやく声の出処が分かった僕は、モグたんをじっと見上げながら感動に浸りました。 『……』 しばし僕たちは無言で見つめ合いました。 歌のお兄さんとなってから半年。 ようやく僕は、番組人気マスコットキャラクターモグたんの中の人は機械ではなく人間だという事実を突き止めてしまいました。 「それよりモグたん先輩の中は誰が入っているんですか?僕、顔知ってますか?」 キラキラと目を輝かせながら僕はモグたんに尋ねました。 『……』 再び無言となってしまったモグたんに、僕はこう言いました。 「中の人はトップシークレットってことなんですね。分かりました。それ以上、もう聞きませんから」 『その辺は賢いんだな』 相変わらず微動だにしない着ぐるみから、とても不釣り合いな言葉が発せられました。 「まぁ、確かにバカではあることは否定できませんけどその辺の察する能力くらいはあります……」 さすがの僕でもバカにされたことに少しだけ腹を立て、思わず頬を軽く膨らませてしまいました。 『だったら心配する程のことではないか』 タレ目の愛らしい顔は一切の表情を変えずに、僕の肩をポンポンと叩きながらそう言いました。 「え、それってどういう意味……ですか?僕、モグたん先輩に心配される程やはりダメなお兄さんなのでしょうか?」 そう言えば先程もモグたんは、俺に「ゆうみお姉さんに言われっぱなしでいいのか」云々仰っていたような……。 もしかしてモグたんの中の人は、ただの中の人ではなく本当はこの番組のお偉い方が入っていたりするのでしょうか。 たとえば影のプロデューサー、だったりとか。 もし中の人から的確なアドバイスを頂けたら、僕はゆうみお姉さんにバカにされることもなく、子どもたちにもバカにされることなく人気のあるお兄さんになれるのでしょうか。 一縷の願いをモグたんへ託そうとした僕は、モフモフの手を取ると続けてこう言ったのでした。 「あの、差し支えなければぜひ僕の専属のコーチになって頂けませんか。皆に愛される“歌のお兄さん”になりたいんです!!!」 この時の僕はモグたんの正体を知らなかったからこそ、強引にこんなことが言えてしまったのでしょう。 後に色々な意味で後悔するなんてこれっぽっちも思っていなかったのです。

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