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第4話
翌日。
いつも通りの時間にスタジオ入りした僕は、周りが騒々しいことに気が付きました。
「響希お兄さん、今日は何だか雰囲気がいつもと違うね」
いつもは大忙しで会話すら交わしたことのない厳つい大道具さんから声を掛けられてしまいました。
「気が付いたんですか?僕、昨日髪を切ったんです!」
早速変化に気付いて貰えた僕は嬉しくなりました。
「そうかー。ようやく歌のお兄さんに見えるようになってきたな。まぁ、頑張れよ」
そう言うと大道具さんはスタジオの中へと足速に消えていったのでした。
その後も数々のスタッフから髪型を賞賛された僕は、どうやらこの騒々しさが自分に向けられていたものだと気が付きました。
昨日モグたんからアドバイスして貰った、素朴な俺でも似合う“歌のお兄さん”らしい爽やかな髪型は間違っていなかったようです。
今日モグたんに会ったら、お礼を伝えなければなりません。
早速意気込んだ僕の背後から、その全てをぶち壊すような圧力あるヒール音と声がしました。
「スタジオ入りしたら皆が騒いでいるから何事かと思ったら、髪切ったの?皆が騒ぐくらいだから、仕上がりは相当ステキなものなんだろうね」
ボディラインが強調された派手な柄のワンピース姿で現れたゆうみお姉さんは舐めるように僕の顔を見つめ、思わず僕は強く警戒してしまいました。
……ゆうみお姉さんに、ジャッジされている。
「ふーん、あんたにしてはまともじゃない。とりあえずは合格ね」
生まれながらに女王様気質であろうゆうみお姉さんはそう判断を下すと、再びコツコツとヒール音を高らかに響かせながら楽屋へと消えたのでした。
すると、丁度ゆうみお姉さんと入れ違う形で反対側からモグたんが歩いて来るのが視界に入りました。
「あ、モグたん先輩だー!」
昨日のお礼を伝えようと、僕は大きく手を振りながら駆け寄りました。
ですがモグたんの様子は昨日と何だか違っていました。辛辣な言葉を投げ掛けてきた昨日のモグたんとは、全くオーラが違うのです。皆から愛される人気マスコットそのもののオーラなのです。
……って、そもそもそれが本来のモグたんなのですが。
「も、もしかして中の人が違う?!」
あああ!どうしましょう。
やってしまいました!
人違いです。
そして僕は気が付いてしまいました。
モグたんの中の人にもお休みがあって、日替わりで入っているのかもしれないという事実に。
だとすると、昨日の辛辣な人は今日はお休みなのでしょうか。
他にも中の人がいるとしたら、僕は一体どうやって辛辣なモグたん先輩だと確認すれば良いのでしょうか。
コーチをお願いした時に、もっと早くこの事実に気が付くべきでした。
相変わらずの自分の要領の悪さに僕は酷く落胆してしまいました。
「ははは、人違いだったみたいです。失礼致しました」
慌てて笑いながら誤魔化すと、僕は恥ずかしさの余り走ってその場から逃げ出してしまったのです。
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