6 / 6

付記

「え? きみって、狸の一族の令息なの?」 ハチヤは糸車を回しながら、その瞳を丸く開く。 「ああ……狸は山の王に仕える由緒ある家系なのだ。一応な」 「……それって、すごい?」 「さてな。だが、人と狸が縁を結んだことよりも、尊いことなどないさ」 共に過ごすようになってから、少しずつ互いをのことを知り始めたが、その中でもそれはハチヤを驚かせる。 楓曰く、狸の一族というものは狐の一族と並び、山の王に旧くから仕える重臣らしい。熊を王として戴き、彼ら二つの一族は双璧を成して『山』の統治を支えている。 ハチヤにとってまったく知らぬ世界のことであり、興味は尽きなかった。 「……きみ、ここにいて大丈夫?」 「そなたの傍にいられないことの方が、『大丈夫』ではない」 「なに、それ……」 無意識の口説き文句ほど恐ろしいものはない。ハチヤはそれを振り払うように、糸を紡ぐ手をわざとらしく、せわしなく動かした。カラカラ、カラカラ。糸車が回っていく。 由緒ある狸一族の次期族長である令息・楓が人間の連れ合いを得た騒動というのは、またこの後のこととなる……。 今ひとたびは、めでたし、めでたし。

ともだちにシェアしよう!