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付記
「え? きみって、狸の一族の令息なの?」
ハチヤは糸車を回しながら、その瞳を丸く開く。
「ああ……狸は山の王に仕える由緒ある家系なのだ。一応な」
「……それって、すごい?」
「さてな。だが、人と狸が縁を結んだことよりも、尊いことなどないさ」
共に過ごすようになってから、少しずつ互いをのことを知り始めたが、その中でもそれはハチヤを驚かせる。
楓曰く、狸の一族というものは狐の一族と並び、山の王に旧くから仕える重臣らしい。熊を王として戴き、彼ら二つの一族は双璧を成して『山』の統治を支えている。
ハチヤにとってまったく知らぬ世界のことであり、興味は尽きなかった。
「……きみ、ここにいて大丈夫?」
「そなたの傍にいられないことの方が、『大丈夫』ではない」
「なに、それ……」
無意識の口説き文句ほど恐ろしいものはない。ハチヤはそれを振り払うように、糸を紡ぐ手をわざとらしく、せわしなく動かした。カラカラ、カラカラ。糸車が回っていく。
由緒ある狸一族の次期族長である令息・楓が人間の連れ合いを得た騒動というのは、またこの後のこととなる……。
今ひとたびは、めでたし、めでたし。
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