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Ⅲ
「鳴尾先輩、お待たせっ!」
勢い良く開いたドアに一気に閉じた目が覚めて頭を起こし、先程も呼ばれた聞き馴染みのある声に焦点を合わす。
日差しが照りつけて眩しいが、ぼんやりとした視界が慣れてくるとそこに浮かび上がったのは、晴だった。
「あれ?寝てました?」
ドアを閉めて連の元へ歩み寄る。
すぐ目の前に来た晴は座っている蓮と目線の高さが変わらない。
「寝ようとしてた。つか敬語やめろ、気持ち悪い。」
「はーい。」
蓮から離れて、一つ立て掛けられているキャンバスの前にある椅子に晴はよいしょと座って持っていた鞄を床に置く。
「そういえばさ、さっき何してたの?」
散らばる筆と絵の具を拾い上げて、パレットも使わずに直接チューブに筆の先を付けて描き始めた。普通なら水か油で溶いて使う物だけど、晴の描き方は違っていた。
蓮は見慣れた光景に不思議にも思わず、会話を繋げる。
「何もしてねぇよ。ただの傍観者。」
「ふふっ、相変わらず怖がられてるの。」
キャンバスを描き続ける晴の横顔を見る蓮。
小さい頃から共に過ごした幼馴染の彼らは、晴が蓮の通う高校に入学してきて間もなく付き合い始めた。
晴から好意を抱かれていたのは気づいていて、同じ高校生になったら相手をしてやると言った蓮の言葉を晴が信じて守り続けた結果だ。
「晴の周りにはホントいつも人が居るな。」
晴は入学早々に美術部へ入部した。
が、部員は彼一人。全く活動を行っておらず担当の顧問も陸上部と兼任という放任された部だった。
美術室の隣にあるこの小さな部屋は、実は準備室で普段は外部で雇っている美術の先生が使う部屋だけれど、一人しか居ない部員の晴の為に活動する部屋として与えてくれている。
帰宅部の蓮はそれを良い事に放課後、校内で晴と過ごす部屋として入り浸ってるという訳だ。
「なんでか集まるんだよね。って蓮…嫉妬?」
「ちげぇよ。なんつーか、心配なだけだ。」
描く手を止めて目をまん丸した晴は蓮を見る。彼は何処を見てるのか照れ臭そうに頭を掻いている。
そんな蓮を見てニンマリと微笑み晴は呟く。
「蓮のそうゆうとこ大好き。」
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