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Ⅱ
空から蓮を呼ぶ声が降ってきた。
声の在り処を見上げると吹き抜けから見える廊下の柵からひょっこりと顔を出して、手をブンブンと左右に振る男子生徒がいる。
「なっ、あいつ…。」
蓮を呼ぶ彼の名前は灯里 晴 。
一年生の晴は背が小柄で愛嬌のある性格の為、各学年からも先生からも可愛がられて人気者。歩くだけで注目の的だ。まるで、蓮とは正反対の様に晴の周りには人が沢山集まってくる。しかも一年にして次期生徒会会長候補でもある。
「後で行くんで待ってて下さいねー!」
そう言い残して晴は連れていたクラスの生徒達と恐らく自分の教室へと去っていった。
その場に動く事なく残された蓮は突然現れた人気者からの呼び掛けによって、周辺から意図しない注目を集めてしまった。
せっかく誰にも何も言われず過ごせると思っていた時間が壊され、その場の空気に耐えられず早々に立ち上がってロビーから去る。
(あのやろ…。)
頭を掻きむしりながら、全校生徒の下駄箱兼ロッカーが並ぶ廊下を通って校内の奥へ進む。現れた階段を登り3階に着くと、更に奥へ続く廊下を歩く。
右に曲がって一番始めに見えたドアノブに手を掛けてガチャリと開ける。
空気が変わった。
ふわっと香るのは油、クレヨン、木…色々な物から発する匂いが混ざっている。
目の前に毎日見ている黒板よりも小さなそれが壁に掛かって、沢山のキャンバスに描かれた多くの作品があちらこちらに散らばっている。
「取り敢えず、ここに居とくか…。」
黒板前にポツンと置かれている木製のスツールに腰掛ける。思ったより小さくて、座ると何時も椅子より膝下の脚の方が長さがある。
何度ここに通っても、周りにあるのは道具の名前も使い道も分からないものだらけで、それらを使って飾られている作品がどうして出来上がるのか不思議なのは、蓮に画力なんてのが無いからだ。
(ホームルームは今日は全クラス無いって言ってたし、そろそろかな…。)
ただ一つある窓からの日差しが濃淡を付けたオレンジに染まり、室内を温かくする。
「ねむた。」
大きな欠伸をする。息を吐き出して頭をすぐ後ろの黒板に委ねると同時に目を閉じる。
-----ガチャ!
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