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今まで同じだったのに、揃えていたはずなのに、それが崩れる感覚がここ最近の俺たちにはある。
育ってきた環境も育ててくれた人間も同じで、生まれつきの性格の違いはあったけど昔は揃えることが簡単だった。なのに成長するにつれて、だんだん周囲の環境から与えられる選択肢が増えてきて、揃えることにも努力が必要になった。ただ生きてるだけじゃ同じにならなくなってしまった。仕方のないことだとは分かっているけど、自分たちの意に反してそうなってしまうのは心が落ち着かない。
もとは一つの細胞だったけど、二人の人間として生まれ落ちてしまったからには、どうしたって一人に戻ることはない。ハルになりたいとも同化したいとも思わないし、別々の人間として生きることで自分が選ばなかった方の人生を間近で見ていられる。これは双子の特権だろう。
「大学も同じところ行けばいいじゃん」
「さすがに医者はねぇ……絶対なりたくないよ」
いつも忙しそうにしている両親を幼い頃からずっと見てきたから、そう思うようになっても仕方ないだろう。俺だって医者になりたいと思っているけど、あの忙しさが自身に降りかかるのを想像するだけで気が重くなってくる。
「でも俺に着いてくれば、ある程度のところまで連れていく保証はするよ」
「……うーん、ぶっちゃけアリだな。着いていくだけなら少しは楽だわ。そういうの考えるのカナの方が得意だし、別にカナになら進路決められてもいいし」
「どうしても自分の行きたいところがないなら、また俺と同じところにしなよ」
高校受験の時だって、ハルは行きたいところがなくて結局俺と同じところにした。大学はさらに自由度が増すから優柔不断なハルは決めるのが難しいだろうな。そもそもハルの行きたい大学がないのなら、既に進む学部が決まっている俺に合わせるのが丸く収まる。
いつまでもハルと一緒にいられるわけではない。いつかは別々の道を歩まなくてはいけないと理解している一方で、ハルと離れる選択肢を取るというのは、少なくとも俺はあまり考えていない。
「同じ大学の違う学部って言っても……カナ、どこの大学にするか決めたの?」
「いや、それがまだ決めてないんだよね」
進みたい学部は決まっているし進学先の候補もいくつかあるけど、メリットデメリットを比較して決めかねている。まだあと一年あるとはいえ目星くらいは付けておきたいし、どの大学にするか親や先生と相談して決めようかと思っていたところだ。ハルも通える学部がある大学となるともう少し絞れそうだ。ハルの学力的には問題ないはずだし、せめてやりたいことが決まってくれさえすればもっと楽になるのに。
進路に悩めるのも学生の特権、青春のうちだって貴臣さんが言っていたっけ。
「将来のことなんて何にも分かんないし、やりたいこともないからどうしようもない。……俺も貴臣先生に相談しようかなぁ」
「自分の家庭教師はどうしたの。あの人、たしか有名私大に通ってるよね?」
「あの人とは授業以外の話をしたくない。貴臣先生の方が信頼できる」
「そう……」
俺にとっての貴臣さんみたいに、誰か一人でも頼れる先生を見つけられたらよかったんだけど、本人が問題を起こすせいでハルの家庭教師は頻繁に変わる。今の家庭教師だって、母さんの恩師の孫だから続いてるだけで、それでももう……崩壊寸前、時間の問題な気がする。
「俺も貴臣先生に家庭教師してもらいたい」
「男性は嫌だって言ってなかったっけ」
「言ったけどぉ……。貴臣先生なら大丈夫な気がする」
「まあ、他の家庭教師の授業でさえまともに受けられない人間には、貴臣さんの授業は難しいと思うよ」
わがままを言うから棘を刺してやったら心外だと言わんばかりにじとっと見てきた。自覚しているなら改善してほしいんだけどな。話をして素直に改善してくれるものなら苦労しないか。
「ふふ、遥果くんは恋愛に進路に、いろいろ悩みごとが尽きなくて青春してますねぇ」
「ったく、こんなキャラじゃなかったはずなのに。何でもかんでもスパッと決められるカナが羨ましいよ」
「そんな簡単には決めてないけどね。俺だって悩んだり迷ったりするよ」
「へぇ?たとえば?」
例えば……どうしたら好きな人が振り向いてくれるのかとか、どうしたらもっと距離を縮められるかとか。もちろん進路の悩みもなくはないけど、最近の悩みはそういうことばかりだ。ハルにはちょっと言えないけど。
「……明日の夕飯何にしようかな、とか」
「それは深刻な悩みだね。俺の命もかかってるわ」
「でしょ?」
軽口を叩いて二人で笑い合う。
なんだかんだ言ってもやっぱり双子だし、俺の人生に一番強く影響を与えるのはハルなんだろうな。
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