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思えばハルの口から将来の夢や目標といった類いの話を聞いたことがない。お互いのやりたいことが何となく分かるから今までわざわざ言葉で伝える必要がなかったというのもあるけど、ハルは今その瞬間が楽しければそれでいいと思っている節があるし、自分のことに関しては計画性がないというか無頓着なように見える。俺とは正反対で成り行きに任せてもどうにかなるだろうと楽観視するタイプで、実際、問題が起こったとしてもその場の勢いで何とかしてしまうのがハルだ。柔軟性があることや臨機応変に対処できるのは強みではあるけど、隣で見ていて心配になることもある。 本当に俺たちって、足して二で割ったらいい感じに丁度よくなるんだろうなぁ。 「別に、二人ともいっぺんに進学しても経済的な心配はいらないって言われてるし、大卒なら就職の幅も広がるでしょ」 「やっぱ将来設計がしっかりしてるやつは言うことが違うね」 「ハルがふわふわしすぎなんだよ。もうすぐ受験生なんだから考えなきゃ。進学するにしても就職するにしても、将来の方向性だけでも決めておいた方がいいと思う」 ハルは「先生みたいなこと言わないで」と苦虫を噛み潰したような顔をした。ハルのことはハルが一番よく分かっているだろうけど、同じくらい俺も分かってしまうから“客観的なもう一人の自分”の意見として心の片隅にでも留めておいてほしいものだ。 「ほら、俺って自由が服を着て歩いてるような人間じゃん?忙しいのもあんまり好きじゃないし、楽に生きていきたい」 「休みが多いからって理由だけで、特進科じゃなくて普通科を選ぶような人だもんね」 「まあ、それが一番の理由だけど……、同じ学科なんかに入ったら比べられちゃうでしょ。そういうの、嫌じゃん。今までカナとの差ができないように、差を作らないように、生きてきたのにさ」 差を作らないという点に関しては俺も同じ意見だ。 俺とハル、性格は真逆なのに友達が見てすぐには分からないくらい、夏希から間違われるくらい見た目を揃えているのは、俺たちがその部分において差を作らないと決めているからだ。 小さい頃から俺たちは、第三者に片方がもう片方に負けたと思われるのも、逆に勝ったと思われるのも嫌だった。同じ見た目をしているのに勝手に差をつけられることに納得できなかった。お互いがお互いの『もう一人の自分』なわけで、俺たちにとって優劣をつけられるということは、極端に言えば自分の否定にも繋がってしまう。俺たちの間にどちらが上とか下とかない。お互いがライバルでありもう一人の自分だと思ってるから、自分たちで小競合いをするのはいいけど誰かにその優劣をつけられたくない。 だから趣味や嗜好以外の、他人が見たときに良し悪しを比べられるようなこと――見た目の他に、例えば相対的な数値が出てくる学力とか身体能力とか――では差ができないように俺からハルに合わせたり、ハルが俺に合わせたり、とにかく他人に比較されないように“揃えて”生きてきた。活発な方と大人しい方、遊んでいる方と真面目な方、そういう風に内面に基づいて比べられるなら全然いい。 外見もスペックもそっくりにしておけば誰が見ても簡単に双子だと分かるし、双子というアイデンティティーを武器にしつつ中身の違いが明確になって個人を際立たせることができる。 面倒臭がりなハルが学科長をしているのも、片割れである俺が学科長を引き受けると決めたから揃えるために渋々やってるってだけだ。まあ、学科長は成績で決まるからハルにだって話が来ることには変わりない。ただ、俺が引き受けると決めた以上、ハルだけ断るって選択肢がなくなっただけだ。 「……ここ最近、俺らしくないって言われるけど、カナもカナで前までと違うって言うかさ……」 「そうだね」 「……なんか、少しずつズレてきてる気がするんだよね。そりゃあ、もう高二だし?揃えているとはいえ、どうにもならない差が出てきても仕方ないとは思うけどさぁ」 今日のハルはやけに素直だ。恋愛相談に進路相談と軽くはない話をしているからだろうか。 拗ねたようなハルの言葉に微笑みだけを返す。 心のどこかで仄かに感じていたものをハルも抱いていたようで安心した。

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