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【16】恋とは人を我儘にするもの
「お前俺とアイツとどっちが大事?」
「あほか!約束してるんだから下んねぇことすんなボケ」
「約束は破るために有るんだぜ!」
「馬鹿たれ」
部屋の入り口にあるクローゼットを開きそこに携帯電話を投げ入れ、手を伸ばし屈んだ春日の背中を強く押す。
ハンガーにかけてある衣類を足元に落としながら春日は壁に激突した。
「いって…この…」
反撃される前に兄崎もクローゼット内に入り、逃げ場をなくした春日を腕に閉じ込めた。狭い空間で密着すれば互いの吐息がやけに大きく聞こえる。
「こういうシチュエーションって興奮しない?」
「バカ。…もう良い。抜いてやるからそれで勘弁しろ」
投げやりに言われ腹が立つ。
いや、腹を立てること自体的外れなのだ。
先約があるのにも拘らず、俺を優先しろと言えば人は誰でも不愉快になる。
しかし、恋とは人を我儘にするものだと兄崎は考えている。
愛故に我儘も許される。
邪魔者を排除することは恋故と正当化できる。
そう本気で考えていた。
兄崎は春日に対しては自分勝手な最低な男だった。
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