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第17話*納棺司*②
「だが有事はアクリル棺の提供もあわせてみるつもりだ」
「はーん。この前のサリー達といい大所帯になってきたなあ」
すると彼女は両手をスカートの縫い目に合わせ深く頭を下げ、
「堤明日見です。経験不足は自覚しています。それでもこれからの自分の為に
頑張りたいのでよろしくお願いします」
「あー播磨です。どーも」
『こういういかにも熱血って苦手なんだよなあ』
「あとツクモこれを見てくれ。他から回ってきたもので少し時間が経っているんだ」
渡された封筒の中の写真を見て、ツクモが即答。
「無理―。TD-4!」
「やはり無理か・・」
「てゆーかどれだけドライアイスぶち込んだのさ。顔についちゃってるから焼けてるし
死後硬直も進みすぎで薬液が血管通らない」
吐き捨てるようにツクモが言う。
「じゃあ用事済んだみたいだから俺帰るわ。ったく地味に遠いよなー。ここ」
「文句を言うな。ほとんど俺の所で余所には行かせていないだろう?」
乱暴に帰るツクモに明日見はたじろいだが、
「気にするな。アイツはいつもああだ。でもエンバーマーとしての腕はトップクラスだ」
「ふう。かったり・・」
乱暴にドアを開けて入って来る。
「あ、おかえりなさい。ツクモさん」
「え?アオイくん」
「今日もお仕事でしたか?」
「あ、ああ打ち合わせをね」
「寒かったですか?」
「ああ、大丈夫。でもドライアイスが少しね・・」
写真で見ただけなのにツクモは小さな嘘をついた。
リビングのソファに座っていたアオイはすっと立ち上がり、ツクモの手の平を自分の頬に当てた。
「アオイくん・・」
「泉守先生が教えてくれたんです。裏口はだいたい開いてるって」
『美鈴ちゃーん。またやってくれたね』
「寒いのも俺で紛れるのなら、少しは力になれるかなって・・」
「アオイくん」
ツクモはアオイの手をどかし思いきりアオイを抱きしめた。
「やっぱりアオイくんは温かい。ありがとう」
アオイの髪に指をうずめ、両腕の中に包み込んだ。
アオイは少し戸惑いながら手を伸ばし、ツクモの服の袖を少しつまんだ。
「ん?おでこが温かい・・」
アオイは額に柔らかいものが当たったが、何かまではわからなかった。
☆TD-1~TD-4エンバーミングできるレベル表記
薬液を使用しない→焼死体(エンバーミング不可)まで
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