17 / 65

第17話*納棺司*②

「だが有事はアクリル棺の提供もあわせてみるつもりだ」 「はーん。この前のサリー達といい大所帯になってきたなあ」 すると彼女は両手をスカートの縫い目に合わせ深く頭を下げ、 「堤明日見です。経験不足は自覚しています。それでもこれからの自分の為に 頑張りたいのでよろしくお願いします」 「あー播磨です。どーも」 『こういういかにも熱血って苦手なんだよなあ』 「あとツクモこれを見てくれ。他から回ってきたもので少し時間が経っているんだ」 渡された封筒の中の写真を見て、ツクモが即答。 「無理―。TD-4!」 「やはり無理か・・」 「てゆーかどれだけドライアイスぶち込んだのさ。顔についちゃってるから焼けてるし 死後硬直も進みすぎで薬液が血管通らない」 吐き捨てるようにツクモが言う。 「じゃあ用事済んだみたいだから俺帰るわ。ったく地味に遠いよなー。ここ」 「文句を言うな。ほとんど俺の所で余所には行かせていないだろう?」 乱暴に帰るツクモに明日見はたじろいだが、 「気にするな。アイツはいつもああだ。でもエンバーマーとしての腕はトップクラスだ」 「ふう。かったり・・」 乱暴にドアを開けて入って来る。 「あ、おかえりなさい。ツクモさん」 「え?アオイくん」 「今日もお仕事でしたか?」 「あ、ああ打ち合わせをね」 「寒かったですか?」 「ああ、大丈夫。でもドライアイスが少しね・・」 写真で見ただけなのにツクモは小さな嘘をついた。 リビングのソファに座っていたアオイはすっと立ち上がり、ツクモの手の平を自分の頬に当てた。 「アオイくん・・」 「泉守先生が教えてくれたんです。裏口はだいたい開いてるって」 『美鈴ちゃーん。またやってくれたね』 「寒いのも俺で紛れるのなら、少しは力になれるかなって・・」 「アオイくん」 ツクモはアオイの手をどかし思いきりアオイを抱きしめた。 「やっぱりアオイくんは温かい。ありがとう」 アオイの髪に指をうずめ、両腕の中に包み込んだ。 アオイは少し戸惑いながら手を伸ばし、ツクモの服の袖を少しつまんだ。 「ん?おでこが温かい・・」 アオイは額に柔らかいものが当たったが、何かまではわからなかった。 ☆TD-1~TD-4エンバーミングできるレベル表記  薬液を使用しない→焼死体(エンバーミング不可)まで

ともだちにシェアしよう!