18 / 65
第18話*小さな命*
「んあ」
【もういいかげん諦めてきた。依頼だ、三十分で着く】
「んだよ、その大きさ。堕ろし?」
「いや正確には違うが死産だ。へその緒が首に巻きついてな、かろうじて出産は
したそうだが、心音は一時間持たなかった」
「母体から出た以上出生になる。出生届と死亡届を両方提出したそうだ。
出生届を出したから家族だけで見送りたいらしい」
いつもより少し硬めの口調で十夜が説明をする。
「特に外傷はないから顔色だけ少し明るくしてほしい。それから希望の衣服はこれだ」
十夜が箱から白いレースで縁取られた布を渡す。
「これは?」
「おくるみだよ。退院の時やお宮参りなどに使う。まあ、新生児の正装みたいなものだろう」
「ふうん・・」
ガチャン
処置室のドアが閉まる。
「小さい手だなあ、お前。血管がわかりづらいよ」
「生まれたてって目が見えるのかなあ?お前のことを愛していた人達の顔は見られたか?」
正確な処置を行いながらも、ツクモの頬には熱い流れがマスクを濡らしていた。
「・・寒い。やべえ」
処置室から出てきたツクモはソファでひざを抱えていた。
見つめた手は震え、背筋は凍る。
「ツクモさーん?」
アオイが裏口からやってきた。
『やばい絶対やばい。帰さないと』
ソファに丸くなっているツクモを見るなり、
「大丈夫ですか?どうしたんですかツクモさん。体調でも悪いんですか」
「ア、 アオイくん。大丈夫だからきょうは帰っていいよ」
「今日のお仕事が辛かったんですか?」
ツクモの顔を覗き込むようにアオイがたずねる。
「いいから、帰れ」
強い口調でツクモがアオイを突き放す。
「寒いんですか?」
心配そうにのぞき込むアオイにツクモはギリッと歯を食いしばり、
「俺は警告したからな!」
ともだちにシェアしよう!