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「……って感じです。まぁ、幽霊を体に憑依させて自分を殺せば除霊できるってことです。憑依されている間は体の自由がほぼ効かないので、なかなか成功はしないでしょうが」 「じゃあ、あの踏切の……」 「フミキリさんを除霊するには、体を貸して死ねばいいってことです。あいつは死にたがってるので、貸しさえすれば勝手に死ぬでしょうけど」 「っ、すまない」    思い詰めた顔をしたセンパイが、頭を下げる。謝ってばっかだな、と苦虫を噛みつぶす。   「謝らないでください。優しくされるのは苦手なんです。もっと図太く生きてくれませんか」 「……厳しいな」    生真面目に断ったセンパイは、声なく頭を下げる。こう扱いにくいと、真面目すぎるのも考え物だ。   「で、なんですが。俺が幽霊に近いと言ったのは他にも理由がありまして。どうやら、母に憑依された影響で、幽霊に触れられるとその感情や記憶がこちらに流れ込む仕様に変わったみたいで」    幽霊同士も触れると相手の感情が分かるらしいので、より幽霊に近くなったってことだと思うんですけど。そう付け足すと、センパイは表情を硬いものに変える。ようやく忌避感を覚えたか、とセンパイの反応に満足する。わざわざこうして弱みを話しているのも、センパイと距離を置くためだ。言うなれば、肉を切らせて骨を断つというやつだ。   「……つまり、踏切のあいつを除霊となると、お前は何回も死んだ記憶や感情を引き継いだ上で仮死体験する必要があるって事か」 「えぇ、そうですね。ついでに人身事故を起こした罪で借金が山のように」    確認の意味を込めてそう問うセンパイに首肯する。軽い口調で言う俺と対照的に、センパイの表情はどんどん暗くなった。   「センパイ。もういい加減、俺を諦めてくださいよ」 「諦め……?」 「そうです。制服を正すとか、人の役に立つとか。俺に期待するのをやめてほしいんです。俺はどうせ期待に応えられない」 「そんなこと、」 「あるんです。俺だって、いい息子になろうとしたことだってあった。霊感がないように振る舞ったこともあった。でも、無理なんです。俺には霊感があるし、どうしても幽霊の方に近い男だから。……無理なんです」    俯く俺に、センパイは言葉を探しながら話しかける。   「お前は、諦めてもらうために、自分から他人を捨てるのか」    制服を着ないのもその一環か。  センパイの言葉に目を伏せ、俺は言う。   「……いや、すみません。それは趣味です」 「…………そうか」  気まずい。

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