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抱いて 濡れて 溺れて 1
「え?・・・病院行かなくちゃいけないんですか?」
「ああ、4日に手術予定だった人がいて、急変したって連絡があってな」
「ああ・・・」
ボクは耳に当てた電話から流れて来る悠貴さんの低くて、耳に心地好い響きを持つ声に聞き惚れながら、思いっきり落胆していた。
今日は大晦日。
悠貴さんと付き合うようになってから、初めての大晦日。
18時に悠貴さんがボクの家に車で迎えに来てもらい、そのまま外で夕飯を食べて、除夜の鐘を聞きに初詣に行く予定だった。
今は17時半すぎ。
そろそろ悠貴さんが来ると、そわそわして待っていたら、電話がかかってきたのだ。
最近全然逢えなかったから・・・楽しみにしてたのに・・・。
ボクは脳神経外科での研修を終えて、今は小児科で研修をしていた。
悠貴さんが無理して大晦日に休みを取ってくれたので、ボクも我が儘を言って休みにしてもらったのだ。
その代わり、昨日は昼勤と夜勤をぶっ続けでやって、今日の昼前に帰って来て、夕方に何とか起きて支度したところだった。
研修先が変わってしまったので、悠貴さんと逢える日が激減し、普段はメッセージのやり取りや電話で話すことしか出来ていなかった。
久しぶりにゆっくり逢えると思ったのに・・・。
「薫・・・ごめん。久しぶりにゆっくり逢えると思ったのに」
ボクが考えていることを、悠貴さんがそのまま口にした。
ボクは電話を握りしめて、慌てて言った。
「いえ!・・・仕方ないです。早く病院行って下さい。患者さんが待ってますよ」
「すまん・・・行けそうだったら明日初詣に行こう。また連絡する」
「はい。待ってます」
ボクがそう言うと、電話が切れて、プープーという電子音が流れた。
部長の悠貴さんが呼び出されるってことは、難しい患者さんなんだろうな。
仕方ない。
こんなこと当たり前のこと。
悠貴さんは超忙しいんだから、仕方ない。
ボクは自分にそう言い聞かせて、電話の通話をオフにした。
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