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抱いて 濡れて 溺れて 23
「ちょ・・・その言い方ヒドくない?」
「本当のことでしょう」
思わず抗議しかけたけど、悠貴さんがたしかに少しエッチで、最初は無理やりだったのを思い出して、何も言えなくなった。
悠貴さんは、ボクを見ると一瞬笑いかけてくれて、その後美影ちゃんの言葉に眉根を寄せて、次の瞬間可笑しそうに吹き出した。
ほんの2〜3秒で表情を変える悠貴さんが珍しくて、ちょっとびっくりした。
いやいや、今はそんなことよりも、もっと大事なことがある。
「悠貴さん、何でうちに?」
「一緒に暮らすからには、ご挨拶しようと思ってね。今日来ることはご両親には伝えていたが?」
「聞いてないです・・・」
「薫と美影には内緒にしたの」
お母さんが楽しそうに笑って言う。
サプライズ成功みたいな顔をして笑う母を、ボクは唖然として見つめた。
お母さん・・・それ、内緒にしてなんか意味あるの・・?
美影ちゃんは、大騒ぎするからいいけど、ボクには言って欲しかった。
悠貴さんも、言ってくれればいいのに。
お母さんの悪戯(いたずら)に乗ってくれたんだろうな・・・。
思わず重い溜息をついた時、悠貴さんが、
「薫は家ではそういう格好してるんだな。覚えとくよ」
とボクを見て可笑しそうに笑う。
「ふえっ・・・これは、その今日はたまたま・・・着替えてきます!」
何だかお正月と同じように揶揄(からか)われてる・・・。
だからさっき、お母さんが着替えるように言ったんだ・・・もっとわかりやすく言ってよ!!
こんな小汚ない部屋着の格好を見られて、ボクは恥ずかしくてキッチンの方へ逃げた。
「薫・・・待ってよ!」
何故か美影ちゃんが紙袋を全部抱えて追いかけてくる。
「着替えるんなら、今日買ってきたの着てよ!可愛いんだから!」
更にファッションショーまでやらせる気なの?
なんの罰ゲーム?
ボクは返事をしないで、廊下に出ると階段を駆け上がった。
美影ちゃんはぴったりとついてくる。
その後は、予想通り美影ちゃんにあれこれ着させられて、髪もセットされて、お人形状態になってしまった。
メイクまでされそうになって、さすがにそれは断固お断りして、諦めてもらった。
リビングに戻って、悠貴さんを囲って食事をしながら、一緒に暮らす話しをして。
予想通り美影ちゃんが泣きながら猛反対して。
それを魅華ちゃんがあやして。
お父さんとお母さんは、悠貴さんが大人の男性で、落ち着いた紳士だと思って、何だか大喜びで。
それが気に入らない美影ちゃんが、また悠貴さんに暴言を吐いたり。
お父さんとお母さんは引っ越しはいつがいいのか、勝手に悠貴さんと相談し始めるし。
とにかく何だか大変な1日だった。
こんな状態で、悠貴さんと一緒に暮らせる日が来るのか、とても不安になってしまった。
それでも、悠貴さんがきちんと筋を通して、家族に挨拶に来てくれて嬉しかった。
この人を好きになって良かったと、心の底から思った。
ボクは隣に座っている悠貴さんの横顔を、ずっと、見つめていた。
Fin
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