1 / 4
第1話
何度抱けばこの人は俺のものになるのだろうか…
見目を気にする彼の肌に纏うものは糸一つ一つが光り輝きそうなくらい全て上等なものばかりだった。彼の白い首元から黒いネクタイを引き抜いた。彼が黒にこだわる理由はわからない。ただ、チンピラなヤクザが着るようなギラギラした色は彼の好みではないということはわかる。何着もあるスーツ、ネクタイ、手袋、靴下、靴すべてに至って黒で統一されていた。このシーツですら。軽く唇をついばみ、その黒に重なる様に黒いスーツの身体を倒した。
この黒が彼にとって特別なものでそれが、他の奴らとは格が違うのだと、上等なものなのだと見せつけるのには十分であった。
赤羽は優しく彼の身体を扱った。
「ふふっ…はねちゃん」
彼はいつものようにそう笑う。
その笑みは赤羽の知っている彼、甲斐と重ねてみてもどうもうまく重ならない。知らない誰かがいるような気さえする。
その声色は幼い頃に聴いたそれと完全に一致していた。幼少期のあだ名で呼ばれるのは大人となった今は気恥ずかしい。
ただその半分は郷愁だろう。こちらは問いただしたことはなかったが、むしろ赤羽がそうあって欲しいと思う部分だった。時を経ても変わらないものはもしかしたらこの呼び方だけかもしれなかった。
「甲斐、さん…」
こっちへおいでと言うように甲斐が手を差しのばすのでそれにされるがままに彼を抱きしめた。
「いいって、言ってるじゃないか、甲斐で。」
赤羽は敬語は苦手だったけれど、今は彼は赤羽よりもずっとずっと上の存在だ。
「そうか…甲斐」
自分としては甘い声で彼の名を呼んだ。つん、と甘酸っぱいどこか懐かしいような感じがするのはまだ自分が過去にすがっているからだと赤羽は感じた。
彼の肩をシーツに押しつけ、さらに深く口づける。
「んっ…ぁんっ…」
舌を使い、歯列をなぞる。
そして舌を絡め取り、絡ませあう。
「…んっ…んっ」
何度も何度も角度を変え、彼の口腔を嬲った。
俺はその唇を割り、夢中で口付ける。彼を酔わせることにすでに俺自身が余裕を失い始めているのがわかる。余裕のある彼、余裕のない自分。それが二人の「差」の一つであった。
ともだちにシェアしよう!