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閑話 返事はない。

   返事がない。    あの衝撃のメール以降なんの音沙汰もない。元々、圭人にとってスマホはゲームをするための機械だ。ゲームを邪魔されるからメールを嫌ってすらする。  メールの着信で戦闘が中断されたりアプリが落ちてしまうらしい。  それはアプリの不具合であってメールは悪くない。  かわいく怒りながら口を使えと何度も言われたことがある。  同じ部屋の中にいてメールをした俺が間違っているのかもしれない。だが圭人はゲームをしている最中の受け答えが雑になる。一緒にいて淋しいじゃないか。  学園の生徒はLINE、Facebook、TwitterなどのSNSを禁止されて、使っていない。少なくとも学園の中でこれ見よがしに使用する人間はいない。いたら周りにたしなめられるし風紀委員から厳重注意をされることもある。  立場のある人間が多い学園の生徒とはいえ子供であるのは変わりない。生徒の自主性に任せる学校だが問題がワールドワイドになってしまったら火消しは難しくなる。  そのため在学中はSNSに投稿する行為は全面禁止だ。  例外があるとすればモデル業や販売業などをしている生徒の営業用の宣伝告知アカウントだけ。外部からの進学組はこのタイプの注意事項を守らなかったり軽視してトラブル発生させたりするが圭人にはその心配がなかった。メールすら俺以外ほとんどしていない圭人。あまりにも人と繋がらなさ過ぎていると疑問を口にしたのは風紀の副委員長だろうか自分が圭人を独り占めしていることに喜んで深く考えていなかった。    圭人への疑問は昨日今日の話ではなく実は出会った当初からあった。どうしてこの学園に入学したのかというものを含めて細々といろいろと。    風紀委員は中学が一般の学校だった人間を監視する。これは公然の事実、暗黙の了解で誰もが知ってて受け入れている。馴染むまでの手助けという名目で風紀委員は高校一年の去年に四月から圭人に張り付いていた。  資料を見ながら問題なしとされている報告に安心していた。  入学当時の右も左もわからなかっただろう圭人を見つめていた風紀委員に嫉妬しながらその時は気にしていなかった「問題なし」という報告。    風紀委員から引き継ぐように圭人と出会ってから今の今まで俺がずっと傍にいたけれど圭人は「問題なし」とされている。  親衛隊からの嫌がらせを受けていないと俺は勝手に判断していた。学園内でどこからも接触はなかったからだ。だが、長期的な休暇や場合によって週末に圭人は実家に帰る。  学園の中でトラブルに巻き込まれず「問題なし」であったとしても外のことは分からない。  もちろん風紀の役割は学園内のことだから風紀委員の報告を疑問視したいわけじゃない。俺は俺の生徒会長としてのある意味迷惑極まりない偶像的な役割を理解している。  一方的に愛され尊敬され崇拝されて持ち上げられる。  それは遊びの一環だ。他に娯楽がないから服を着るように役割を担って適当に楽しんでいる。何かに熱狂するのは楽しいし同じネタで周囲と盛り上がるのは絆を深めることになる。  話のタネと呼ぶには親衛隊の在り方は各隊さまざまだ。  雑談喋り場なお茶会もあれば賞状やトロフィーを捧げるためというモチベーションとして掲げたり基本に戻るように対象者の生活を助けるために動いたり。親衛隊に限らず組織の厄介なところは上の意向が下にまで伝わっていないことがままある、そういうことだろう。    実家で何か問題があったのではなくて親衛隊あるいは勘違いの生徒が圭人を攻撃しているそういった想像が膨らんでいく。  生徒会長である俺に圭人が付きまとっていると訳の分からないことを本気で言っている人間が居たりするのが学園の怖いところだ。どう贔屓目に見たところで付きまとっているのは俺だ。これだけ俺が圭人への愛をアピールしているのにそれが見えないなんてありえない。    だが、有りえないことをやってのける常識知らずがいる学園だから侮れない。    箱庭のように小さい世界で生きていると視野が狭く知識があっても頭が悪くなっていく。感受性の成長が失敗したんだろう。事実を都合よく解釈する。現実をちゃんと把握しない。    自分に対してブーメランとして返ってきそうだが俺は圭人と上手くいっていた。少なくともゴールデンウィークに入る前は何も問題なく過ごしていた。    かわいい犬耳を見つけたので渡したら感心したように頭につけてくれたし尻尾も頼んだらつけさせてくれた。じゃれて俺をぺろぺろ舐める圭人のかわいさはプライスレス。  かわいいかわいい言い続けて写真を撮り続けたら少し怒られたけれど、写真じゃなくて目の前の自分を構えってことだ。何それ、かわいい。  イベントの時に俺へのご褒美みたいに自主的に酔ったりしてくれる圭人。  だけれどゴールデンウィーク前に淋しくないようにって、犬ごっこをしていた時はお酒も薬もなくてもわりとふにゃふにゃ感じてくれていた気がする。  犬の尻尾バイブの効果なのか最初に入れていたアナルプラグ型の犬の尻尾のおかげなのか。拡張されてスムーズだったし圭人も気持ちが良さそうにわんわん喘いでくれた。    そこで俺は親衛隊や他人に責任を求めるのをやめた。圭人からの返信がないのを確認してメールを送る。   『別れたいのは俺が巨根だからか?』    言い出しにくいだろうし直せなんて言えるわけもない。いつも十分に愛撫をしてから挿入しているとはいっても「大きい」「お腹が苦しい」「奥まで届いてる」と圭人から言われるたびに質量が増大するらしく負担をかけていた。  少し俺が興奮を冷ますために動かないでいたりする、そんな時に手持無沙汰なのか高頻度でケータイでゲームをしたがる圭人。  あの行動は実のところ俺を萎えさせようとしていたのかもしれない。  ケータイに圭人を取られてむしろ煽られていた。  俺は圭人のことを何もわかっていなかった。  愛する人のことを知りたいという欲求は空回りし続けるものなのかもしれない。  愛しているからこそ考えすぎてしまう。    俺たちに必要だったのは会話よりもアナの拡張だ。          返事はない。   ------------------------------------------------------------------------- 本編に入らなそうな小ネタ。 「会長じゃなくて名前で呼んで欲しいなぁ~、なんて」 「お菊さん」 「え」 「お菊さん」 「……あ、別にイヤじゃないけど、そんなかわいい顔しないで」 「キュ?」 「きゅう?」 「キュキュ?」 「ちょっと待って圭人がかわいすぎて俺の人格が崩壊する」 「キュキュ~」 わんわんは人を名前で呼ばないワン。 魁嗣(かいし)朝陽 (ちょうよう)で会長(かいちょう) 「名前で呼んで」と言われたので朝陽(ちょうよう)=重陽(ちょうよう)の節句=菊の節句→お菊さん それがイヤそうだったので、菊の節句=9月9日→キュキュ(キュウキュウ)の流れ。 神様が神山さんじゃないのが悔やまれます。 (神様に関しては、名前を知る前に神様あつかいだったので) 登場人物の正しい名前があんまり出てこない話ですが、 ネーミングルールは上のタイプなので、 これからの登場人物の本名はなんとなく分かるかもです。 (そのうち登場人物紹介を入れます)

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