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閑話 返事はない。

   魁嗣(かいし)朝陽 (ちょうよう)というのが生徒会長である俺のはず。会長イコール俺のレベルで圭人も刷り込まれている、はず。会社の会長とか中学の生徒会長とかそういうのもいる。いるにはいる。世間には俺以外の会長もいる。  でも俺宛に別の会長へのメールが来るわけもない。   『会長、別れよっか?』    圭人からメールが来たと喜んで本文に撃沈。嘘だ。こんな現実あるわけない。今すぐにでも電話をかけて事情を聞きたい。精神的に前のめり気味の手を止める。    ゴールデンウィーク、実家で何かがあったんだろう。何かとは何だ?  どんな理由があれば俺と別れようなんて結論になる。    親に交際を反対された。    これは普通に有りえることだ。  異性愛者が普通であって同性愛というのは、まだまだマイノリティ。  親の目の前でスマホを握らされ俺へ別れの言葉を送る圭人。想像だけで涙が止まらない。  ただその場合、おかしいのは疑問形であること。  俺が別れたくないって返事をするのを待っているようだ。  この考えがは正しいのかもしれない。  きっと親から「相手は遊びなんだからお前の別れの言葉に頷くはず」とかなんとか言われたんだろう。  親衛隊が俺の隣の席になっただけの人間に訳の分からない因縁をつけていたのは知っている。ちなみに俺の知る限り圭人はそういったトラブルには巻き込まれていない。四六時中俺が傍にいるからなのか圭人は人に絡まれない。  校内ではトイレも一緒。  どこでも一緒。    俺が目立っているせいか圭人は相対的に影が薄くなるらしく未確認生命体扱いされていた。  圭人のことは俺だけが見ていればいいので俺だけの確認生命体だ。   『別れたい理由に俺が納得いくなら考える』    そうメールをしてから考えてもう一通メールを送る。   『考えるだけで別れるとは言えない。悪いところがあるなら直す』    またメールを送る。   『愛してる』    返事はない。  

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