13 / 72

閑話 誰の目から見ても二人はラブラブだった。

   俺の嘆きを感じ取ったのか圭人が「喘いで欲しい?」とか「乱れて欲しい?」と聞いてくるので思わずうなずきかけるが男として俺は踏みとどまった。  安易な選択をしたら破滅が待っているのが世の常だ。  誕生日やクリスマス、バレンタインデーなんていうイベント事の前後に気まぐれな猫のように愛らしく小悪魔よりも蠱惑的に俺に自分をどうしたいのか聞いてきた。それはもう愛の囁きに等しい。  プレゼントは自分自身という形で惜しみなく与えてくれる圭人は天使の具現化された姿だ。お酒でほろ酔い状態だったり媚薬を飲んだとしなだれかかってきたり圭人も圭人で自分が感じにくい体質であることを気にしているようだった。かわいらしさ天井知らず。    適当に自分で切ったらしい黒髪は少し伸びっぱなしで俯くと目元にかかる。圭人はそれが嫌なのか部屋の中でヘアバンドやカチューシャをしている。  猫耳のカチューシャを渡したらへし折られた。うさ耳もダメだった。あまり出来がよくなかったけれど最後に残ったからか犬耳をつけてくれた。  圭人の愛情深さに俺は失神しそうだ。  語尾に思い出したように「ワン」とつける圭人は本当にかわいい。  興奮してかわいいかわいいと言いながら腰を撫でてたら唸られながら肩を噛まれた。犬ごっこ最高だ。死ぬほどかわいい。圭人のかわいさに殺される。    かわいさに感動から泣いていたらしゅんと落ち込んだ顔で「ごめん」と言いながら噛んだ肩をぺろぺろ舐める圭人。  俺はこの日、かわいさで人が殺せることを確信した。圭人が狂犬病の犬だったとしても俺は喜んで噛まれると伝えたら病気なんて持ってないと怒られてしまった。俺の言葉はなんて不自由なんだ。  圭人のかわいらしさを圭人自身にちゃんと話すことも出来ないなんて恋人失格だ。  深く落ち込んだものの俺以外が圭人の恋人の座に収まることなど未来永劫ありえないので日々精進。向上心を忘れてはならない。    恋人に対する不満は一切存在しないが謎や気にかかることはやっぱりある。    圭人はどうやら特定の宗教に入っているらしい。  朝起きて一番にすることが黙祷。お祈りや礼拝とは少し違うらしい。  ベッドの上で正座する圭人はとても厳かな空気をまとっていて邪魔をすることなどできないので俺は静かにベッドから抜け出て朝食の支度をする。  大体十五分ぐらいで圭人は寝室から出てくる。  その時はいつものただの無表情。  張りつめた空気は何処にもない。  あとは満月の晩と新月の夜。満月は確実な満月を調べているわけではなく空を見て満月っぽかったらスイッチが入る。踊り出したり祝詞を唱えるわけでもなくただ見つめる。首が痛くならないのかと疑問に思うほどに見つめる。  月を見ている圭人を俺は見つめる。  ちなみに抱きつくと拒絶されるので月見用の団子を作ったら膝枕をしてもらえるようになった。ただやっぱり、うさ耳はつけてもらえない。かわいいのに。  月ばかりを見ている圭人に輝夜姫を連想して勝手に泣きそうになったのは秘密。    新月の夜や曇り空は比較的早く圭人は眠りにつく。最初は気付いていなかったけれど曇りだから早く寝ると梅雨の時期に立て続けに言われて圭人のルールに気が付いた。  でも俺の不満というか、一方的な欲求不満を感じ取ってくれたのか、圭人は淡々と眠れないほど激しくするならOKなんて淫魔の誘惑としか思えないことを俺に囁いてきた。  圭人はかわいいだけじゃなくエロかわいいという禁断のスキルまで身に着けて俺を翻弄してくる。寝るのでも寝ないのでもどっちでもいいなんて煽られて迎え撃たないのは男じゃない。俺が種馬に成り下がったとしても仕方がない。当然の成り行きだ。    圭人がかわいいからとはいえやりすぎてしまったことを反省する日は結構ある。  それでも圭人は一度として俺を責めることはなかった。  謝る俺に無表情をわずかに崩して小さく頷く。  身体を起こすのがつらそうな圭人。  そんな圭人にご飯を食べさせるのが幸せだなんて思っている俺は、全然自分のしたことを反省していないのかもしれない。    ともかく俺と圭人はどうしようもなく愛し合っている。  誰の目から見ても二人はラブラブだった。  

ともだちにシェアしよう!