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閑話 これは俺が下手なのか?

 吉永(よしなが) 圭人(けいと)との出会いは転入生を見るために食堂に足を運んだ日だ。    俺から見て圭人が食堂の入り口付近、転入生は奥側にいた。  そのおかげで立ち上がって副会長を呼んだりする転入生に隠れることなく圭人が見えた。  騒がしくなっている周りを気にせずマイペースな姿に思わず目を止める。  背格好から何まで平均的な姿なのに見つめずにはいられない。    ちまちまとパフェを食べている圭人は、無表情で鬼気迫る様子で気になったのに声をかけることが出来なかった。俺に気づかないなんてという自意識過剰ともとれる気持ちとそこまで熱中させているパフェに軽く嫉妬した。  そのまま圭人を見つめていれば転入生が声をかけてくる。俺は圭人がパフェのことしか考えていないように圭人を見るのに夢中だったから無視した。静まり返る食堂。意に介さずにパフェを食べ続ける圭人。それを見つめる俺。俺を見守る周囲。なんともシュールな光景だった。    圭人がパフェを食べ終わり、満足気に目を輝かせた愛らしさに、俺は天使の降臨を確信した。        それから生まれて初めてのナンパをして告白をした。  人に思いを伝えるのがこんなに緊張するものだとは思わなかった。  面と向かって話しているだけで、動悸と息切れで頭がどうにかなってしまいそうなのに目が離せない。触れ合った指先は緊張から震えてしまった。格好悪い姿が自分のものだと思えない。    一緒にいるうちに一つずつ知っていく圭人のこと。  けれど同時に一つずつわからなくなっていく。    圭人は一般家庭の出で、特待生のようだけれど、この学園にきた。  その理由は何だろう。  家庭環境に問題があったり、就職のことを考えていたり、大学進学のためだったりと一般家庭の人間がこの学園に進学してくる理由はそこそこある。  だが、初等部や中等部からの持ち上がり組が、九割以上を占める全寮制の学校にわざわざ入学するだけの理由が圭人には見当たらない。  将来のことを聞いても自分が決めることじゃないと返された。  親の事業を継ぐのだろうか。  そういった話になると、圭人はいつもの無表情が嘘のように気だるげで艶っぽくなる。  俺を誘って話をはぐらかしているのかと思ったら天然だった。  考えるのが面倒になって脱力した時の圭人はメチャクチャエロい。  クイズ番組を見て真面目そうに見える無表情から、一転してソファに寄りかかる隙のある無防備な姿。冷えたカップに熱い液体を注いで温度差でぺきっと軽い音を立てて壊れる、そんな光景を思い浮かべてしまう。  俺の熱で圭人をトロトロにしたい。  半ば使命感に駆られてあの手この手で頑張った。    いつもの無表情そのままに圭人が快感をあまり拾わない身体だったことは悲しかった。けれど俺との触れ合いを嫌がったりすることがなかった。それは愛だと思う。ただエッチの最中にスマホは禁止。これは基本的なことのはずだ。  俺が腰を振っているのを尻目にスマホをいじる圭人。  急ぎの用なのかと思えばアプリのゲームだと言われた。  そんなの今やらなくていいって訴えても、エネルギーが時間で溜まるから戦闘をしておきたいと淡々と返された。俺のこと嫌いなのかと泣き真似をすると圭人からキスをしてくれる。愛されてる。ただスマホでゲームは続行中だ。    次からスマホを手の届かないところに置いたり手を縛ったりするとエッチの途中で寝られた。寝顔もかわいかったけれど放置プレイつらい。  これは俺が下手なのか?

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