みゃーみゃーさんは風紀委員会の顧問をしている。 　ちゃらんぽらんの教師と有能な生徒のパターンとは逆だ。 　経験のある教師と一年の風紀委員長。 　みゃーみゃーさんは去年は生徒会顧問だった。 　年齢は元祖みゃーみゃーさんから考えて三十代のはず。 　たぬポンと同期だったりするんだろうか。みゃーみゃーさんの見た目は造形美を崇めたくなるタイプではなく雰囲気イケメンというやつだ。適度に筋肉のある身体つきで気が利いて頭だっていい。 　会うたびにお菓子をくれるのはみゃーみゃーさん一人目と同じだけどジュニアは紳士だ。みゃーみゃーさんは食べかけをくれたりするからいけない。新品をおくれ。　 　 　手の中の未開封のお菓子にみゃーみゃーさんの素晴らしさを再確認。みゃーみゃーさんの偉大さを堪能していると会長が犬さながらに威嚇するように唸り声を上げる。わんわんはオレだ。どうしたんだ、人間。 　 「恋人の前で他の人間に近寄っちゃダメっ。わかった、圭人？」 　 　拗ねたような声で子供っぽい言い分に噴き出した。お 　前は自分の容姿を分かっているのか？ 　成人男子に見えるような大きさでオモチャをとられた子供の反応だ。 　ギャップ萌え狙いなら成功だよ。「かわいいっ。今の動画に撮りたい」とキチガイの呟きは聞かなかったことにしといてやる。すると調子に乗ったのか「俺に向かってみゃーみゃー鳴いて。猫耳つけて」と言いだした。 　コイツの犬軽視、猫推しはどういうことだ。敵か！？ 　オレへの挑戦なら受けて立ってやると覚悟を決める前にみゃーみゃーさんがオレの頭を撫でた。 　 「髪の毛切ったなぁ～」 　 　先日の強盗放火事件のことがみゃーみゃーさんの耳に入っていないはずがない。 　 「ってわけで、数人が入れ替わってる」 　 　ちなみに「ってわけで」の前には何も言っていない。強盗放火事件というのを口に出せなかったにしても不自然すぎる切り出し方が如何にもみゃーみゃーさん。 　 「みゃーみゃーさんは？」 「俺は宮本だっての」 　 　みゃーみゃーさんは特に変わりないらしい。入れ替わっているというのは、生徒か、教師か、用務員や事務員かは知らないけれど、組織の人間がいるということだ。 　王道を盛り上げるためではなくオレの護衛件監視。オレは強盗犯と顔を合わせている。相手の顔はバッチリ見ているので口封じに始末しようとしてくるのは想像にたやすい。 　 「みゃーもとさん、みゃーみゃーさんは？」 「アニキなら元気だ。休みに会わなかったのか。珍しいな」 　 　元祖みゃーみゃーさんは飼い主と一緒だったので入れ違いだ。今回は屋敷が火事になったので飼い主たちがいなくて良かったのかもしれない。 　 「宮本先生はそこの問題児と知り合いなんですか？」 　 　オレを指さしながら言い出す風紀一年。 　お前に世間のつらさを味わわせてやろうか！？ 　 「わんわん……吉永圭人は階級にうるさいから気をつけろ」 「階級、ですか？」 　顧問だからかみゃーみゃーさんには殊勝な態度を見せる風紀委員長。 　一方生徒会長であるオレの彼氏様はみゃーみゃーさんがオレに「あーん」とやったのが気に食わないらしい。何処から現れたのかチョコクロワッサンを親衛隊長から貰っていた。メガネは出来る子。オレにチョコクロワッサンを「あーん」してくる彼氏様。もちろん食べる。 　クロワッサンがボロボロこぼれたりチョコが口元についた。舐めとろうと近づいてくる会長を妨害するようにみゃーみゃーさんがオレの口元にハンカチを当てた。廊下だからね。ここ。 　 　風紀委員長が呼び留めなければサクッと寮に帰れていたのだ。オレたちが目立ったとしたらそれは風紀委員長のせいだ。みゃーみゃーさんの呆れた顔にオレは視線で訴えかける。会長に見つめ合うなと言われた。知るか。 　 「吉永圭人からすると実績のない一年は大きな口を叩ける立場じゃない。だから、自分からケンカを売りに行くな」 「僕は注意しにっ」 「とりあえず手軽な菓子でも持ち歩いていろ。餌付けは無理でもこれ以上嫌われるな。フォローできなくなる」 「嫌われる？　吉永圭人にですか？　こんな何考えているか分からない無表情の問題児に嫌われたからなんですか。そんな気持ちじゃ風紀は務まりません」 「お前は何を言っているんだ」 「人から嫌われることも風紀の仕事の内です」 　ダメ人間はすぐに開き直るからいけない。自分が正しいと信じて疑わないのは異常者だ。少しは周りを見て自分が平気かどうかの確認をしてから発言しろ。 「結果的に人から嫌われるのと人から嫌われるような行動をするのは全然違う。そんなことも分からないから人の上に立つ器が持てないんだよ」 　 　わんわんは下っ端に容赦しない。カーストが低い相手に対して尻尾を振らないのがわんわんだ。覚えておくといい。休日のお父さんが家の中で追い払われ続けて犬から舐められるように自分より下だと思った相手にわんわんは強い。 　犬の世界は階級社会ですよ。